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2020年のDNAシークエンス市場は1兆円(+ブログ100万アクセス達成のお礼)

ブログアクセス回数の総計が、昨日(12月1日)で100万回に達した。ブログを書き始めたのが2014年6月21日であるので、わずか1年半足らずでの100万回達成となった。多くの方に、拝読いただいていることに感謝申し上げます。

ブログを始めたときの目標は100万アクセスで、早くて5-6年、遅ければ10年はかかると予測していたので、思わぬ誤算でした。その時点か、シカゴ大学を引退する時か、いずれか早い時点で(研究者人生を打ち切りにする段階で)このブログを打ち切りにしようと思っていたので、昨日から、どうしたものか考え込んでいました。

二百数十回書き綴ってきたものの、私が何かを書いた、言ったからといって、日本の状況に影響するわけでもないことは百も承知であった。ただ、自分の思いを、生きた証として残そうと思い、このブログを書き始めた。しかし、日本医療研究開発機構に関する情報などを聞くたびに、日本の混乱はひどくなり、「日本のゲノム研究の失われた8年」に次ぐ、「日本の生命科学研究の失われた10年」を引き起こしかねない状況だと案じられる。もちろん、これも私に何かができるわけでもない。

米国の会社にいる知人(アメリカ人)たちからも、「日本は大丈夫か?どうなっているのか?」という問い合わせが来るが、私の知る限りにおいては「混沌」の一言しかない。研究の現場を知らない人たちが制度を変えようとしているようだが、たとえると、相撲の幕下や3段目レベルの力士に、プロ野球の1軍のコーチをさせようとしているのだ。要するに、無茶苦茶なのだ。

このような状況下で、日本が世界から大きく取り残されているDNAシークエンス事業に関して、2014年には3000億円産業となったこと、そして、2020年には1兆円産業になるとの予測が出ていた。日本の致命的な遅れは、生命科学産業、特に「ゲノム研究の社会への還元」、に対する国家的ビジョンが欠落していたのだから、当然の帰結と言えるが、もう、追いつけないだろう。医療の将来にゲノムは不可欠だと見通していた米英の政治家のトップと、ゲノムの「ゲ」の字も理解できていなかった日本の政治家や彼らに対して「ゲノムなど不要だ」といい続けていた科学研究政策のトップの見識の差が、この分野での産業力の差となっている。

10年近く前に、中国の科学政策担当官僚のトップと話したことがある。彼は医療・医学の専門家ではなかったが、高齢化社会に対応するためのゲノム研究の重要性をしっかりと認識していた。世界最大規模を誇る北京ゲノム研究所は、思いつきでできたのでも、突発的にできたのでもない。将来を見据えた政治的判断でできたのだ。日本の大物政治家にも、本当にゲノム研究の医療における重要性を語ることのできる人が出てきて欲しいと願うのみだ。

また、「Nature Reviews Drug Discovery」誌に、米国と英国で行われている国家支援の「Drug Repositioning(薬剤の再配置)」プロジェクトの概要が掲載されていた。すでに市販されている薬剤や開発中の薬剤が、承認されている、あるいは、最初考えていた対象疾患以外に効果があるかどうかを調べるためのプロジェクトである。Repositioningという言葉以外にも、‘Repurposing(再目的化)’、’Reprofiling(再機能解析)’、‘Rescue(救助=当初の目的では効果がなかったが、別の用途で有用性が見つかったような場合)’、’Indication Discovery(新しい適応症の発見)’などと呼ばれる。

高血圧症の薬剤であったミノキシジルが、育毛剤として承認されたのは、まさに、再目的化、新規適応症の発見であり、狭心症薬としてうまくいかなかったシルデナフィル(バイアグラ)がED治療薬として蘇ったのは‘Rescue‘であろう。法外に高額な抗がん剤が次々と登場する中で、このような動きは特に重要だ。2013年度の抗がん剤の世界全体での売り上げは10兆円を越えており、トップ10品目の売り上げだけで5兆円である。いずれにせよ、すでに人での安全性が確認されている薬剤や市販されている薬剤を、国の予算で再配置・再目的化する大掛かりなプロジェクトが米英で進められているのである。もはや、日本が生命科学分野で追いつく可能性はほとんどなくなった。

で、話を最初のこのブログをどうするかに戻す。自分でもいろいろ考え、周りの人の考えも聞いたが、もう少しだけ、研究生活を引退するまで(そんなに長くはないが)続けることにした。しかし、日本の危機的状況について語るのは今回で最後だ。これ以上言っても、繰り返しになるだけだし、馬鹿馬鹿しい。自分が阿呆に思えてきた。最初からわかっていたことだが。

今後は、新しい研究成果や米国での生活の様子、私の人生観などを静かにお伝えしたい。

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