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がんを治癒させるために必要なこと!

今週の「Science Translational Medicine」誌に“Is all cancer therapy immunotherapy?”というコメンタリーが掲載されていた。これは同じ雑誌に発表された「抗HER抗体と免疫チェックポイント抗体の組み合わせが非常に効果的であった」との結果をもとに、コメントがなされたものである。

私はこのブログでも再三、がん組織内での免疫環境が、免疫チェックポイント抗体療法だけでなく、抗がん剤、分子標的治療薬、放射線療法などの治療法の効果に密接に関連する可能性について触れてきた。

CD8細胞(細胞障害性機能を持つリンパ球=がん細胞を殺すことができる)の働きを抑えたマウスモデルでは、放射線療法の効果が著しく減弱する。この結果は、放射線で損傷を受けたがん細胞が死滅し、それを掃除するために飲み込んだ細胞(貪食細胞)が、がん細胞に特異的な抗原をCD8リンパ球細胞に伝え、それを引き金にリンパ球が活性化され、さらにがんを攻撃する、などの連鎖的な反応が治療効果を発揮するために不可欠であることを示している。

抗がん剤治療や分子標的治療でも、同じような仕組みが潜在的に必要なはずである。これまで、がん細胞での遺伝子異常に焦点が当たってきたが、抗がん剤治療の効果を予測するためには、がん組織での免疫環境を調べることが必須となってきている。また、多くの抗がん剤治療は一時的に効果的であっても(たとえ免疫チェックポイント抗体治療が、一部の人には、非常に効果的であっても)、大半のケースでは再発を経験し、その多くが死に至る。

がん細胞はしたたかであり、2段3段構えで、これに対応しない限り、治癒には至らないのだ。しかし、この壁を前に立ちすくむのではなく、壁を乗り越え、新しい世界を開かねばならない。それでは、今可能なことは何なのか?

  1. 治療法を次から次と小出しにするのではなく、併用で一気に叩く。副作用を考慮すると、可能な治療薬のすべてを投与することは難しいが、FOLFIRINOXのような4つの抗がん剤を併用するような治療法が登場している(FOL=ロイコボリン、F=フルオロウラシル、IRIN=イリノテカン、OX=オキサリプラチン)。白血病では多くの薬剤が併用されている。
  2. 治療抵抗性が高い、がん幹細胞(私は個人的にはこの言葉は好きではないが)を根絶やしにする。
  3. できる限り、早く発見する(がんが画像診断で見つかってからではなく、リキッドバイプシーなどで検出できる段階で、治療を開始する。6-9か月程度早い段階で治療を始める)。
  4. がんを守っている免疫の仕組みを抑えるだけでなく、がんを攻撃する免疫細胞の強化を行う。

などが必要である。がん幹細胞を効果的に叩くことができる薬剤はまだない。がん幹細胞と言われる細胞では、がんでない、一般的な幹細胞の特徴を示す分子が発現しているため、がん幹細胞を攻撃する薬剤が、副作用を起こすことなく治療に利用できるかでどうかが課題だ。しかし、この課題の克服は重要だ。

(3)に関しては、日本では商業化が遅れている、リキッドバイオプシーの一般的な普及が必要なことは言うまでもない。血液中に混在しているわずかな量のがん由来DNAを見つけるのだ。ただし、画像で捉えられない程度のがんの再発に対して、副作用の頻度が高く、高額の薬剤費が必要な免疫チェックポイント抗体治療をすぐに始めるのか適切かどうかは疑問だ。

(4)に関しては、がんワクチン(オンコアンチゲン、ネオアンチゲン)療法、これらのワクチンで刺激した樹状細胞療法、キメラ受容体T細胞療法、がん特異的抗原を認識するT細胞受容体を導入したTリンパ球療法などが考えられるが、前の二つは副作用リスクが低いし、原理から考えて、早い段階での利用が望ましい。それに対して、後の二つは副作用のリスクが否定できないので、しばらくは進行がんで検証するしかない。

大半の臨床医は、再発・転移すれば、死を前提に何か月、何年という単位で、患者に対接する。しかし、白血病やリンパ腫では治癒率がこの10-20年で劇的に向上している現実がある。がんを治す、これに執念を燃やす医師・研究者をもっとサポートする体制が必要だ。検査結果を見て、マニュアル通りに治療するだけなら、人工知能に任せればいい。

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