がんサバイバー問題

シカゴは急に寒くなり、今、雪が降っている。先週の日曜日は20度近いポカポカ天気だったが、日曜日は最低気温マイナス8度、1日中氷点下の予想だ。この温度差は、真夏日から、1週間で真冬日を迎えるような感じだ。ジェットコースターもびっくりの気候の変化だ。でも、4度目の冬を迎えつつある今、体はそんなに驚きはしない。今朝も気温は零度だったが、問題なく、大学まで歩いて通勤できた。もう、日本には住めないかもしれない。

そんな中、ネットニュースで読んだ、北の湖理事長が急死された件は、誕生日が半年程度しか違わないために、いささかショックだ。どうも最近、がんで亡くなる著名人が多いように思う。三人に一人ががんでなくなる時代だから、当然かもしれないが。北の湖理事長の場合、以前、両側性水腎症で手術したと書かれていた。死因は、直腸がんによる多臓器不全だったので、水腎症は、がんが広がって両方の尿管が閉塞してしまったのだろうかと思った。それであれば、その時点で、かなり進行したがんだったのだろう。しかし、前日まで公務をこなしていたと言うから、立派なものだ。

そして、昼には、がんに罹患したが、無事治癒した人たち、がんサバイバーに関するセミナーがあった。米国では1年間に13,5000人が小児がんに罹患する。30年前は60%台であった5年生存率が、現在は85%まで改善しているそうだ。したがって、小児がんからのサバイバー(生存者)は、累積で42万人になるとのことだ。米国の国民の約750人に一人が小児がんサバイバーだ。すべてのがんからのサバイバーは1200万人に及ぶそうだ。

以前から述べているが、日本では、サバイバーに関する研究や高齢者のがん治療に対する研究が、ほとんどなされていないと言っていい。単純に人口比で見ると、日本にも4百万人前後のがんサバイバーがいるはずだし、小児がんのサバイバーも十数万人いることになる。小児がんで最も多いのは白血病であり、ほとんどの場合、治療中に毒性の高い抗がん剤、あるいは、放射線に暴露される。成人と異なり、成長期の子供は細胞の分裂も盛んに行われているため、一見正常に見えても、多くの細胞のDNAが傷を受けている。

がんサバイバーは精神的なケアが極めて重要なことは言うまでもない。そして、当然ながら、がん治療の結果として引き起こされる二次的な医学的問題に対する対応も必要である。このためには、まず、長期的にフォローアップして、どんな医学的な問題が起こるのか、エビデンスを得なければならない。たとえば、乳がんや骨軟部腫瘍のリスクは、15倍に上がる。脳照射を受けた子供では、成長ホルモンの分泌不全が50%近くで起こるし、集中力の低下を引き起こす人が10%以上いるなどだ。循環器疾患、呼吸器疾患の頻度も高くなっている。

14358人の小児がんサバイバーを追跡した結果では、1383人が2次がん(別のがん)に罹患、そして、また別のがんを起こした人が384人、さらに別のがんが153人いたそうだ。もともと遺伝的にがんにかかりやすい人が含まれていたかもしれないので、すべてが治療の影響によるとは断定できないが、基盤となるデータがないと何も語れない。

いずれにせよ、がんの罹患者数が増え、治癒率も向上してきているので、がんサバイバーに対する本格的な取り組みが必要だ。それには、大規模かつ、数十年単位の取り組みが求められるし、競争的な研究資金ではなく、安定した支援体制が絶対的に必要だ。それには、今の日本の体制ではダメなのは明らかだ。

がんサバイバーの問題にしてもそうだが、数十年後の医療を見据えた、国家的な設計図が不可欠だ。その柱の一つとして、前回も触れたが、医療情報の電子化、それを利用した科学的なエビデンスの蓄積、それを利用した人工知能による高精度な医療体系の構築が急務だ。日本医療研究開発機構なる組織は、このような日本の骨組みを考えるところだと思っていたが、どうも、権威主義的で、単なる研究予算の配分組織のようなもののようにしか聞こえてこない。がんサバイバー対策などどうするのだ。安倍政権の三本の矢がこれで機能するのか?

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