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がんと腸内細菌;予期せぬ関連―腫瘍内免疫環境と腸内細菌

医療(がん免疫・免疫ゲノム学) 医療(一般)

 

 

先週の「Science」誌に、腸内細菌が、腫瘍内の免疫環境、免疫チェックポイント抗体の効果に影響する可能性を示した論文が2報発表された。それに付随して、「Cancer and the gut microbiota: An unexpected link」(がんと腸内細菌;予期せぬ関連)と称する論説が報告されていた。

 

二つの論文は、人間ではなく、マウスで検証したもので、一方が抗CTLA-4抗体、もう一方が抗PD-1抗体を利用しており、腸内細菌の種類も異なる。腸内細菌が、全身の免疫環境に影響を与えることは、これまでに多くの論文で報告されているし、クローン病や潰瘍性大腸炎患者に、健康人の腸内細菌を移すと症状が改善することは以前にもこのブログで触れたとおりである。しかし、論文を読む限り、腸内細菌の、抗チェックポイント抗体の効果に与える影響は大きい。腸内細菌の有無で、その効果は相当異なっている。

二つの論文で利用されている最近の種類が異なるので、特定の細菌だけが重要なのかどうかもわからない。CTLA-4抗体の論文では、バクテロイデスという細菌が利用されている。この菌は、われわれが消化するのが難しい、フラクトオリゴ糖などの糖を栄養源として利用しており、従来から腸管の免疫に影響を及ぼすことが知られている。もう一方の論文は、ビフィズス菌を利用している。この論文を読むと、乳酸飲料を販売している会社が喜びそうだ。論文の科学的事実は、マウスでは確実に何らかの影響を与えていることを肯定している。

しかし、この論文のデータがどこまで、現実のがん患者の状況を反映しているかは慎重に考える必要がある。CTLA-4抗体論文のマウスは、これらの細菌を投与する前には、無菌環境で飼育されており、また、無菌の飼料を与えられている。このような条件で、突然、腸管に細菌が入ってくれば、いろいろな免疫が活性化されるのは当然で、それが巡り巡って、どのように抗腫瘍効果に関連するのか、不明な点があまりにも多い。非特異的免疫活性化を起こす薬剤については、何十年にわたって議論が続いているが、人のがん患者に対する効果については疑問が残る。

PD-1抗体の論文では、同じ系統のマウスを2ヶ所の企業から購入して、それらに腫瘍を移植し、腫瘍の増大を比較するところから始まっている。異なる場所で飼育されたマウスでは、腸内細菌が異なり、それが免疫に影響を与え、腫瘍の増殖の速さが違ってくる仮説(腸内細菌―腸管免疫―腫瘍での免疫環境)で話がつながってくる。2種類のマウスを比較して、腸管内のある腫のビフィズス菌と腫瘍内の細胞障害性(がんを殺す)リンパ球数の関連性を示している。非常に興味深い。

しかし、われわれ人間は、日常多くの細菌に暴露されているし、食物を通して多くの細菌が経口で入ってくるので、マウスに比べて、免疫環境は桁違いに異なっている。実際のがん患者で、はっきりとした相関があるのかどうかは、相当な規模での検証が不可欠である。まさに、Immunopharmacogenomicsの時代の幕開けだと思う。

このようなことを考えているときに、ゴリラが自らの糞を食べているという話を耳にした。ゴリラだけでなく、パンダやサイ、あるいは、ウサギなども、そうらしい。その理由を調べると、動物園のゴリラは暇だからという、わかったような、わからないような説明が書かれていた。「ほんまかいな」と大阪弁で自問自答する。ウサギで調べると、ウサギは消化機能が弱く、糞には多くの栄養成分が含まれるために、糞を食べてさらに栄養を補っていると説明されていた。こちらの方が、なんとなく、理にかなっているような気がする。

しかし、動物は、地球の激しい環境の変化の中を生き延びてきた過程で、感染症や自己免疫に対応するために、腸内免疫環境のバランスを保つための方法として、自分の糞を食べる術を記憶してきたのではと、思ってみたくなった。こう考えると、糞を食べるという汚らしい動作が、なんとなく地球の歴史を映し出すロマンに満ち溢れてくるような気がしてきた。こんなことを考えるのは、私だけだろうか??

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