びっくり仰天、論文審査詐欺

先週号の「New England Journal of Medicine」誌に「Peer-Review Fraud-Hacking the Scientific Publication Process」という記事が掲載されていた。論文の審査過程が乗っ取られ、不公平な審査が行われていることに対する問題提起の論文である。

 

科学的な雑誌では、審査員2-4人程度が専門的な意見を求められ、論文を掲載するかどうかが決定される。したがって、審査員の責任は大きく、公平に論文内容の科学的な評価を下し、かつ、雑誌のレベルを考慮しながら掲載すべきかどうかの意見を表明しなければならない。

 

トップクラスの雑誌では、出版社が雇用した専任の編集委員が第一段階の審査を行い、その段階で80-90%の論文が篩にかけて落とされ、ごく一部の論文しか、外部の審査委員の審査に回らない。外部審査に回ると30%-50%(雑誌によるが)が採択に至る。したがって、数%-10%の論文しか採択されない厳しく狭い門となっている。

 

トップクラスの雑誌の審査は、審査員のレベルも高く、かなり公平であるが、それでも、時々、とんでもない、低レベルの論文が掲載されることがある。特に、専門性が高まり、視野の狭い研究者が増えてきたためか、限られた知識で、一面的にしか論文を評価できず、ありえないような見落としをされていると思うことが少なからずある。

 

研究者サイドから見ると、論文を投稿して、審査を待つ間はストレスがかかるし、審査員のコメントが感情的で、しかも、まったくの的外れであった場合には、血圧が上がって、脳の血管がブチ切れそうになる。歳を取って丸くなったせいか、理不尽な世界に慣れたためか、最近はそんなことがなくなったが、決して公平ではない現実が存在している。

 

そして、表記の論文の話に戻るが、こんなストレスを回避し、論文が確実に採択されるように、論文の審査過程を乗っ取る方法が生み出されたのである。研究者としての道徳観の欠片もない新手の詐欺である。多くの雑誌が、論文の審査をして欲しい研究者を推薦するようになっている。編集委員側も審査員を探すのも面倒なので、安易にこの推薦リストから審査する人を選ぶ雑誌に目をつけ、利用したのである。

 

なんと、推薦した審査員が、自分自身だったのである。推薦した審査員候補者(実在しない)に偽のメールアドレスを作成して、審査が自分自身、あるいは、自分の仲間に回すという驚きの手口である。自分や仲間が審査するのであるから、審査結果は好意的であり、論文は確実に採択される。Splingerという出版社は、今年の8月に、この手口で不正に審査が行われていた64論文(10雑誌)の撤回を行った。

 

そして、この不正を行った論文の大半が、中国からの論文であった。中国国内での競争を反映しているのだろうが、それがこのような行為を正当化する理由になるはずがない。日本国内にも問題がないわけではないが、一部中国人研究者のモラルの低さは、想像を絶している。

 

STAP問題でも競争の激しさが不正を生んだと擁護する声があったが、生活が厳しいから泥棒を許容していいと言っているに等しく、問題点をすり替えてはならない。今、多くの出版社が、類似事例がないかを調査しているので、この問題はどこまで拡散するしかわからない。

 

いずれにせよ、研究の分野に限らず、海外では排気ガス不正、国内では耐震ゴム・マンションの杭打ち不正などの不祥事が多発している現在、人としての在り方そのものを真剣に考え直す必要があるのではないだろうか?

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