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PARP阻害剤から考える「Precision Medicine」の重要性・必要性

医療(一般)

今週号の「The New England Journal of Medicine」誌に、再発進行前立腺がん患者の「一部」に対して、DNA修復に関連する重要な分子PARPの働きを抑える薬剤(阻害剤)が有効であると報告されていた。「一部」と断ったが、この一部の患者さんを定義する指標として、がん細胞におけるDNA修復関連遺伝子(BRCA1/2、ATM, FANCA, CHEK2など)の異常を特定したことが重要な部分である。 

第II相試験に参加した50名中、49人が臨床効果を判定された。全体で見ると腫瘍縮小が16名で認められた。この数字も決して悪いとは思えないが、上記のDNA修復遺伝子の異常が見つかった16名に限ると、14名(88%)で腫瘍縮小が認められた。PARP阻害剤の働く仕組みを考えると、必ずしも、どのようにしてがん細胞を殺すのかといった薬剤の働く仕組みは明確ではないが、効果の有無が、がん細胞の持つDNA修復能力にあることは興味深い。

また、全員に対して、臨床効果を画像で判定したのではなく、血液中に含まれる腫瘍細胞数の減少に基づいた評価が入っているので、頭の固い臨床腫瘍内科医は文句をつけるかもしれない。実際、血液中に流れているがん細胞は減少しているが、画像診断では変化なしが2名、腫瘍の増大が1名となっており、評価病変の変化と血液中のがん細胞数は、必ずしも一致していない。しかし、このような時代の進歩についていかないと、日本はガラパゴス島化してしまう。文句をつけるなら、自分たちの手で評価して欲しいものだといつも思う。評論家のような臨床腫瘍医が、日本のがん医療の進歩を妨げている。

と、話が逸れてしまったが、この論文を通して私が訴えたい点は、遺伝子解析とそれを利用した臨床試験の重要性である。もし、今、がん患者すべてのがん組織における遺伝子情報がデータベース化されているとすれば、DNA修復遺伝子に変異を持っている前立腺がん患者、あるいは、その他のがん患者に対してでも、DNA修復遺伝子変異があれば、この薬剤を優先的に投与する臨床試験の実施が可能となる。現状では何も治療法がない患者さんにとって光明となるし、薬剤の評価を迅速に進めることができる。 

頑迷な医師は、二重盲検試験(医師にも患者にも、本物の薬が投与されたのか、偽薬が投与されたのかわからない試験)にこだわるかもしれない。しかし、この論文を読んだ上でも、何も投与しないコントロール群を設定せよというのが倫理的とは、私は思わない。わずかな差を統計学的にはじき出すのではなく、科学的な論理を優先した評価方法が必要になってきている。 

いずれにせよ、今や全エキソン遺伝子解析しても10万円より、はるかに安くできる。遺伝子情報を利用した「Precision Medicine」、遺伝子情報に基づいた医療の個別化、は手の届くところまで来ている。がん患者さんに希望を提供するためには、がん医療の大きなパラダイムシフトが必要だ。

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