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国立がん研究センター講演会ー9

二つ目の分子標的治療薬開発の対象は、TOPKと呼ばれる分子です。この分子は現在、広く利用されているキナーゼ阻害剤とは、かなり性質が異なるキナーゼで、細胞分裂の終期にきわめて重要な分子です。図はこのTOPK分子の働きを抑えると細胞分裂がスムースに行かなくなることを示したものです。TOPKがなくなる、あるいは、働かないとがん細胞は細胞分裂を完全に終了することができません。siRNAを利用してTOPKを作れなくしてやると、分裂途中のがん細胞は、ほぼ二つに分離していますが、2個の細胞が細い糸状のようなものでつながっでいます。このまま、完全に分離できないままに、もんどりうって最後は死んでしまいます。

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2006年にTOPKが抗がん剤開発のための有望な分してあることを報告後、TOPKに対する阻害剤を作りだしました。これもオンコセラピー・サイエンス社との共同研究です。TOPKを発現している細胞では、TOPK阻害剤(OTS964)のIC50が7.6nMから73nMですが、TOPKを発現していない細胞HT29では、IC50が290nMであり、TOPK選択的に細胞増殖阻害を起こしていることがわかります。

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右下は、TOPK阻害剤で処理したときの細胞の様子を示したものですが、細胞分裂を終えることができず、二つの細胞で糸状のものでつながっていることがわかります。このデータも、この阻害剤がTOPK分子特異的に働いていることを証拠づけるものです。

続いてこれを用いて動物実験を行いました。しかし、副作用が強くこのままでは上手く利用できないと考えました。副作用として、強い白血球減少症が認められましたが、興味深いことに血小板が増える現象が認められました。従って、この薬剤はMDS(骨髄異形成症候群)という病気の治療に応用すると、治療によって起こる重篤な血小板減少症を回避する理想的な治療薬になるかもしれません。いずれにせよ、毒性を回避するためEPR(enhanced permeability and retention)効果を利用しようと考え、この薬剤をリポソーム製剤にしました。正常の血管とがん組織における血管を比べると、正常な血管は血管壁の穴が小さいのに対し、がん組織の血管は、血管壁の穴が大きいことが知られています。したがって、リポソーム製剤は、よりがんの組織に蓄積しやすく、効果の増大と副作用の軽減が期待されます。

 

これを利用して、動物実験を行ったのが次のデータです。6匹中5匹のマウスでは完全に腫瘍が消失しました。また、白血球減少症も全く認められませんでした。その際、がんの組織を調べたのが次の図です。中央の図で明らかなように、この治療薬を投与したマウスの腫瘍では、やはり細胞分裂が妨げられ、がん細胞が死んでいっているのがわかります。その左図と比較すると、がん細胞の数が激減しているのが、おわかりになっていただけると思います。

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さらに、経口吸収性が高いと考えられたため、経口投与による動物実験を行いました。御覧になってあきらかなように、2週間の投与で打ち切って、その後2週間経過を見てみましたが、1か月後には6匹中6匹のマウスでがんが完全に消失していました。また、2週間後には、白血球減少症が認められましたが、29日後には完全に回復しており、この間、体重減少も認められませんでした。ちなみにこの薬剤に関しても、色々ながん腫で調べてみましたが、すべてのがん腫において非常に高い腫瘍増殖抑制効果が認められました。是非、この薬剤の臨床試験を早く進めたいと思っています。

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最後に、国立がん研究センターが、マニュアルに基づいた医療ではなく、患者さんに希望を提供できる、世界に誇るセンターになることを願って、提言をしてみたいと思います。