国立がん研究センター講演会ー7

次にがんワクチンの話をします。先ほど示したがん特異的タンパクの配列をもとにペプチドを合成し、これをスクリーニングして、がん細胞を攻撃する細胞障害性リンパ球を誘導できる可能性のあるがんペプチドワクチンを、これまでに100種類程度見つけました。これらの一部を用いた臨床研究が進められており、代表的な例を紹介します。

f:id:ynakamurachicago:20151025014954j:plain 

一つ目は進行食道がんに対して、3種類のペプチドワクチンを用いたものです。山梨大学の河野浩二先生が責任者でやられたもので、結果を次の図に示します。図のなかに0,1+,2+,3+とありますが、0はワクチンに反応するリンパ球の活性化が全くおこらなかった患者さんです。1+は、1種類のワクチンに対してだけ、リンパ球が反応して増えた患者さんです。2+は2種類のワクチンに反応してリンパ球が増えた患者さんです。3+は3種類すべてのワクチンに対して反応が起こった患者さんです。御覧になって明らかなように、がん特異的ワクチンに対する反応が強くなればなるほど(細胞障害性リンパ球の数が増えれば増えるほど)、患者さんの予後は良くなっています。

 次のデータはは近畿大学の奥野清隆先生が中心となっておこなわれた、転移性大腸がんに対するワクチン療法の結果です。この臨床研究では7種類のペプチドワクチンが利用されました。図は、肺の転移巣が縮小したり、消失したものを示しています。

f:id:ynakamurachicago:20151025015036j:plain

 

7種類すべてのワクチンに反応した患者さんと、それ以外の患者さんの1年後の生存率を比較しますと、前者は100%の生存率であるのに対して、後者は十数%と圧倒的な差が見られます。これも、がんを攻撃するリンパ球の数が重要なことを示唆しています。

 

f:id:ynakamurachicago:20151025015104j:plain

さらに、3つ目は熊本大学の吉武先生を中心として行われた、頭頸部癌に対するペプチドワクチン療法の結果です。食道がんと同じく3種類のワクチンが利用されました。図で明らかなように反応が高ければ高いほど、患者さんの生存期間が延長しており、3つすべてに反応した患者さんでは、4年生存率が50%を超えています。

f:id:ynakamurachicago:20151025015140j:plain

 

それでは本当に、われわれの体の中にはがんを殺すリンパ球が存在している証拠を示します。図左の大きな丸い塊が食道がん細胞、小さな塊がリンパ球を示しています。このリンパ球は、がんペプチドワクチン療法を受けた患者さんから取り出されたリンパ球です。患者さんからリンパ球を取り出し、その中からワクチンを認識するリンパ球をより分けたものです。そのリンパ球をがん細胞に加えますと、リンパ球ががん細胞を攻撃し、3時間後には、ほぼ全てのがん細胞が、風船が破裂したかのように抜けがらとなっております。

f:id:ynakamurachicago:20151025015209j:plain

このデータはわれわれの体の中にがん細胞を攻撃し、殺すリンパ球が存在していることを示す強い証拠となります。現在、免疫療法は非常に重要視され、われわれが利用したオンコアンチゲン以外にも、がん細胞で生じた遺伝子変異を含むネオアンチゲン、あるいは、T細胞受容体遺伝子を利用したT細胞療法、あるいは、CAR T細胞療法など大きな注目を集めています。

f:id:ynakamurachicago:20151025015300j:plain

 免疫療法は、今や、効くか効かないか疑問を残すといったレベルの治療法ではなく、科学的にしっかりと裏付けされたがんの治療法となりました。しかし、どのような患者さんに効くのか、効く患者さんでは何が起こっているのかなどを、さらに、詳細な科学的な裏付けをとることが必要です。私は、患者さんの選択やモニタリングに供する学問分野としてイミュノファーマコジェノミクス(Immunopharmacogenomics)という分野を提唱しております。9月には本も出版しましたので、興味のあるかたは是非読んでください。

f:id:ynakamurachicago:20151025015335j:plain