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国立がん研究センター講演会ー2

家族性大腸腺腫症の原因遺伝子を見つけたいと思って、留学したのです。しかし、本当はもう少ししっかりと勉強していれば、行かなかったかもしれません。論文で読むと、いとも簡単に遺伝子が見つけられるように書いてあったのですが、行ってから、気づいたことですが、遺伝学的解析をするためには、両親の染色体を区別しなければなりません。その道具がなかったのです。後の祭りでしたが!

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図のように、顕微鏡で、1番、2番、3番と染色体が二本ずつあることは識別できますが、どちらが父親由来で、どちらが母親由来なのかを区別するということが、できなかったのです。遺伝学的な手法を利用して、原因遺伝子を突き止めるには、両親の染色体を区別しなければなりません。

そこで、この両親の染色体を区別できる多型マーカーを見つけるとことから、私の遺伝学の人生がスタートしました。留学後しばらくは多型マーカーを見つけることに専念し、VNTRマーカーと命名した多型マーカーをサイエンスという雑誌に1987年に報告しました。

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みなさんこのような図は見たことはないと思いますが、サザンブロッティングという手法で人のDNAを解析したものです。下の図にわかりやすく説明しましたが、この家族のそれぞれのメンバーのDNAが縦に並んでいます。

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同じ高さにあるバンドが、同じ染色体断片を示しており、それぞれ二つずつあるバンドで、両親の染色体を区別することができます。祖父母から、両親へ、そして、子供へと遺伝子がどのように伝わったのか、判別することができるようになりました。詳しいことは省きますが、この両親の染色体を区別することが遺伝学の歴史を変え、遺伝性疾患の原因解明が一気に進んだのです。

下図は遺伝的多型マーカーの歴史を示したものですが、私の名前は1987年のVNTR報告者として歴史に刻まれています。今から、30年近く前の話です。遺伝的多型マーカーの歴史は1980年に始まりましたが、その歴史と共に歩んできたようなものです。

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遺伝的多型マーカーは、遺伝性疾患だけでなく、がん抑制遺伝子研究、易罹患性遺伝子の解明、薬剤応答遺伝子の研究にも役立ちました。下図は、第10染色体の遺伝的染色体地図を示したものですが、1988年には、両親の染色体を区別できる多型マーカーは24種類しかありませんでした。そのうち、20種類はRay White研究室にいた私のグループが見つけたものでした。世界の多型マーカーの多くがWhite-Nakamuraマーカーだったのです。

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下の図は、がん細胞で、染色体が欠落していることを多型マーカーを利用して検出したものです。正常細胞では2本あるバンドが、がん細胞では1本になっています。両親のいずれの染色体がなくなっているのかまでは言えませんが、一方がなくなっていることが簡単にわかります。たとえば、第17番染色体にはがん抑制遺伝子であるp53遺伝子があり、染色体がなくなることによって、p53の働きが失われていたのです。

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このような多型マーカーを利用することによって、世界で初めての研究が進んだのです。例えば、大腸がんにおける染色体の欠失を網羅的に調べた研究、人のがんで始めてp53遺伝子の異常を見つけた研究などの成果を報告しました。そして、7年かかって、家族性大腸腺腫症の原因遺伝子であるAPC遺伝子の発見へとつながったのです。

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このサイエンス誌の表紙を飾った、家族性大腸腺腫症の患者さんでのAPC遺伝子の異常は癌研究所の生化学部で見つけたものです。

 

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この研究成果によって、発症前に100%の精度で家族性大腸腺腫症の発症を予測することが可能になり、社会に還元することができるようになりました。

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しかし、馬鹿メディアが、下記のような批判をしました。「無理やり採血して、がんになると告げるような残酷なことをしている」と批判したのです。もちろん、勝手に採血することなどありえません。今も、昔も、批判することを念頭に取材しているから、このようなとんでもない誤認記事を平気で書くのです。

この家系の人は、親が家族性大腸腺腫症であれば、子供が同じ病気に罹ることは50%だとわかっています。私が原因遺伝子を見つける前から、遺伝学的に明白な事実です。しかし、確率が50%であれば、1-2年に一度は検査を受け続けなければならないのです。がんができて手遅れにならないために。何十年も検査を受け続ける精神的な負担はかなりのものです。しかし、陰性とわかればその必要はありません。病気になるかもという不安から解放されるのです。そんな簡単なことさえ、理解しようとしない無知な倫理学者たちに取材して、批判を展開するのです。陽性であれば、がんでなくなることを回避するための手立てができますし、当時でも直腸を残して普通の生活をする手術ができたのです。インフォームドコンセントをしっかりとって遺伝子診断をすることのどこが問題なのでしょうか?倫理学者と称する人たちは、医療の実態を全く理解せずに、論うことはやめてほしいものです。

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薄っぺらの知識を振りかざして、批判することを目的に事実を捻じ曲げるメディアは日本の医学研究・医療の進歩を妨げている元凶だと思います。

(続く)