日本の凋落;世界大学ランキング

英国の雑誌「Times Higher Education」が世界大学ランキングを公表した。教育や研究、論文の引用件数、知識の移転、国際性などを加味して評価した結果である。日本の各紙は、「東京大学がアジアの首位から陥落した」ことを大きく取り上げているが、問題は東京大学だけに限らない。東京大学以外にも、日本の大学の世界ランキングの順位が大きく下がっている。

ちなみに東京大学は23位から43位、京都大学は59位から88位と下がり、大阪大学、東北大学、東京工業大学は200位圏内から去っている。この結果、アジア1位はシンガポール国立大学(世界26位)、2位は北京大学(アジア42位)となり、東京大学はアジア3位となってしまった。科学雑誌は英語で記載されたものが、圧倒的な優位に立っているので、英語圏の国が有利であることは間違いない。しかし、世界に羽ばたく日本の大学どころか、翼の折れた日本の大学といった様相を呈しているのはどうしたものか?

こちらにいると、大学に限らず、日本の存在感の低下が著しいことが実感できる。シカゴ大学でも、中国・韓国・インドからの留学生に比して、日本からの留学生は非常に少ない。これでは、日本のことを知らない人たちが多くなるのは当然だ。東大だ、京大だ、国立がん研究センターだと威張っていても、世界という土俵では相手にされなくなってきているのである。いつまでたっても、島国内での争いに汲々としているからではないのか?広く世界に目を向けた戦略が絶対的に求められる。

われわれの生命科学の分野で考えると、多くの国際プロジェクトが進行している。たとえば、今週号のNature誌に大規模ゲノム解析に関する3つの論文が発表されたが、日本は全く蚊帳の外だ。1000人のゲノムを詳細に解析した論文では、日本の貢献はゼロだ(この経緯は以前に紹介したので省く)。英国での1万人のゲノム解析データの論文は、日本のバイオバンク試料を利用すればこれ以上の成果があげられたはずだ。全く世界が見えていない。国際的な枠組みに参画することの重要性を認識しなければならない。とにかく、生命科学の基本であるゲノム解析を過小評価した人たちの罪は深い。この分野での弱体化が日本の大学の生命科学研究での活力、国際競争力を削いでいる。

また、この凋落の原因のひとつとして、大学の教官定員削減があげられる。大学病院の医師の問題を何度か取り上げたが、仕事量が増えてきているにもかかわらず、逆に定員が削減されている。診療に割かれる時間は確実に増えている。教育も知識量の膨大な増大とともに、負担は増加する。われわれの世代のように仕事だけに生きる人たちは、今の若い世代にはほとんどいなくなった。したがって、研究に利用できる時間は極端に限られてくる。

科学の世界も、ビジネスの社会と同じで、競争が激しく、急がなければ、それまでの努力が無になってしまうことが少なくない。時として、金メダル以外は、全く評価されない。こんな状況で、若い研究者に金メダルを取って欲しいからと考えて、少しでも強いると、ワパハラだ、アカハラだと騒ぐ人たちがたくさんいる。こんな理不尽な体制を押し付けられては、みんな息切れして、体力の気力も萎えてしまうにきまっている。

若手の研究職は大半が期間限定で、常に次の職のことで不安感が募り、腰を落ち着けて研究に打ち込めない状況が続いている。女性の登用も重要だが、女性に限らず若い人たち全般が活力を失っているように見える。若い人たちがもっと将来に明るい展望をもって生きていくことのできる体制を、現場の声を聞きつつ、整備してもらいたいものだ。日本の貴重な財産は、人材だ。それを生かさなければ未来はない。

f:id:ynakamurachicago:20151002072024j:plain