がん患者に貢献できるがん研究を目指して;これでいいのか国立がん研究センター

来週の水曜日に日本に帰国する。日本癌学会と日本人類遺伝学会、そして、バイオジャパンに参加するためだが、それに加え、14日の午後4時から、若手の研究者からの依頼を受けて、国立がん研究センターで「がん患者に貢献できるがん研究を目指して;これでいいのか国立がん研究センター」のタイトルで講演をする。過激なタイトルだが、喧嘩を売りにいくのではなく、私の人生を振り返るとともに、日本の若手がん研究者・臨床医に伝えたい 遺言を残したいと思って、お引き受けした。

センター内の内輪の会であるので、外部の人は参加できないが、その内容は10月後半に、このブログで、何回かに分けて、詳細にお伝えする予定にしている。是非、私の話に刺激を受けて、日本から「患者さんに貢献できる研究成果」を発信して欲しいと強く願っている。次世代を担う人が頑張らねば、日本のがん患者は救われない。

以下が、講演要旨である。

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1984年に家族性大腸線腫症の原因遺伝子の解明を目指して米国に旅立った日から、30年以上が過ぎた。外科医として接した若いがん患者の死をきっかけに、若年に起こるがん、すなわち、遺伝性に起こるがんの原因を知ることによって、親より先に旅立つ子供、幼い子供を残して無念な思いで天国に旅立つ親を無くしたいとの思いからユタ大学を留学先に選んだ。家族性大腸線腫症の原因遺伝子、APC遺伝子の発見には成功したが、がん患者への貢献する道は遠く、険しい。しかし、1回目の米国留学で、研究者に共通する基盤研究を通して、広く研究者コミュニティーへ貢献する尊さを学んだ。日本では決して学ぶことができない貴重な経験だった。当時共同研究していた仲間には、ジョンス・ホプキンス大学のVogelstein教授、NIH(当時はミシガン大学)のCollins長官、MIT・Broad研究所のLander教授、McGill大学(当時はオックスフォード大学)のLathrop教授がいる。彼らからは、科学研究が社会に貢献する重要性を学んだ。基盤となる研究、たとえば、多型マーカーによる連鎖解析、ゲノムシークエンス、ハップマッププロジェクト、バイオバンク、がんゲノム、免疫ゲノムなど、日本では評価されないが、生命科学研究に果たしてきた意義は計り知れない。さらに、Collins所長とは、2003年に始まったHapMapプロジェクトで1年6ヶ月にわたって、1週間に1度電話会議に参加し、リーダーシップのあり方を教わった。かつての研究仲間の刺激を受けつつ、ゲノム研究を基盤にして、がん研究とそれを利用した治療薬開発に向けた努力を続けている。山あり、谷ありの日々であったが、現在では、われわれの成果から生まれた、がんワクチン、抗体治療薬、分子標的治療薬の治験が行われるに至っている。

2回目の留学で感じた日米の差は、研究者の社会・患者に還元する思いの差である。分子標的治療薬・免疫療法、これらは突然登場したものではなく、しっかりとした長期的なビジョンのもとに、地道な研究が、熱意を持って続けられてきた結果である。治療薬だけでなく、リキッドバイオプシーの臨床応用など急速に進んでいるが、日本の動きはあまりにも遅い。自分の研究成果を患者に還元したいと願う基礎研究者と最後まで患者さんに希望を提供したいと願う臨床医、その両者が同じ方向で協力し合わない限り、何も生まれるはずがない。このセミナーでは、私の研究者人生を振り返ることで、若手研究者が何かを感じ取ってもらえれば幸いである。そして、「これでいいのか国立がん研究センター」と若手研究者に問う場にもしてみたい。

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