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がん“Precision Medicine”プロジェクト

医療(一般)

次世代シークエンサーの開発がさらに進み、全ゲノムや全エクソン解析コストは、実用可能なレベルとなってきた。しかし、米国では臨床応用をするための遺伝子解析は、データの質を保つことがきわめて重要なため、CLIA(Clinical Laboratory Improvement Amendments)規定に従って行われなければならない。命に関わる検査結果が、いい加減に行われてはたまらないので、一定の基準を設けるのは当然のことである。この手順を遵守するための作業費用がかかるため、研究目的でシークエンスを行う場合に比べて、その費用は3-5倍程度に膨らむのが一般的である。

しかし、遺伝子解析コストは格段に低下してきたため、特定の遺伝子に的を絞った解析から、全エキソンをシークエンスする方向への流れは止めようがない。新薬が開発された際にすぐに役に立つし、新しいワクチン開発にもつなげられる。また、5-10年後には血清・血漿や尿・唾液などを利用したがんのスクリーニング(液体を利用するので、リキッド・バイオプシーと呼ばれる)が急速に広がると予測している。この場合、遺伝子に限らず、これらの液体中のがん特異的タンパク質・べプチドやがん細胞によって生み出される代謝産物(メタボライト)なども解析対象となる。

また、遺伝子異常を手かがりにがんの再発を調べていくことも定着するだろう。しかし、全エキソン解析やそれに基づく早期診断・早期再発診断(画像で見つからないレベルで再発を検知)ができたとしても、患者さんに分子標的治療薬がすんなりと提供できるかというとそうでもない。薬剤の開発が急速に進んでいるのは事実であるが、特定の遺伝子変異に対応した薬剤はまだまだ限られている。

新薬が開発されるにつれて、分子標的治療薬が提供できる割合は次第に増えてくるだろうが、現時点では20-30%の患者さんにしか、分子標的治療薬は当てはまらない。現在流行している免疫チェックポイント抗体も平均すると20-30%の患者さんにしか有効でない。1回百万円もする薬剤を、しかも、自己免疫病のような副作用が出現する頻度の高い薬剤を、全員に投与するのは医療費の観点からも現実的とは思えない。また、これまで用いてきた毒性の高い抗がん剤を、転移や再発が画像から明らかな段階で、高用量に投与すべきかどうかも定かでない。

この観点からは、副作用リスクが非常に低いがんワクチン療法が望ましいはずである。非常に進行したがんでは、リンパ球数の誘導が間に合わず、一部の患者さんしか利益が期待できないと考えられているワクチンだが、画像診断で検出できない程度のがんの細胞数を考えるといい勝負ができると思われる。もちろん、臨床試験という手順を踏まなければなれないが、これまでのデータからの科学的な推測は可能だ。

いずれにせよ、がんの診断・治療体系は大きく変化しつつある。際限ない医療費の負担ができるはずもないので、対費用効果も考慮した、がん予防・がん診断・がん医療のポリシーを確立していく必要がある。以前にも指摘したが、がんの治療によって引き起こされる2次がん、高齢者のがん医療など、問題は山積している。中国では多くの医師・研究者が、すでにPrecision Medicineの重要性を語っている。日本に省益を乗り越えた国家戦略ができるのか!

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