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白血病の50年(2);血液内科医に感激!

医療(一般)

昨日の夕方、研究仲間であるウエンディ・ストック教授に名誉称号が授けられる式典とセミナーがあった。5年前に急性リンパ性白血病と診断された患者さん(医師)が、無事5年間を経過したこと(がんから生還したこと)に感謝して、ストック教授に多額の寄付をした。それによって、その患者さんの名前を冠としたXX教授称号が大学から授けられたのである。その患者さんの名前はシカゴ大学が継続する限り、残されることになる。アメリカ文化である。

 

米国ではビルにXXビルディングと名前の付いたものがたくさんある。大阪大学医学部にも松下幸之助さんの寄付によって建築された「松下」講堂があったが、米国では寄付した個人やファミリーの名前がついた建物や教授称号が本当に多数ある。寄付によって自分の名前を残す文化が確立されているのである。自分の信頼・信愛する教授や大学に名前を残すことがひとつのステータスとなっているのだ。

 

この式典では、まず、医学部長が寄付に至った経緯を紹介し、続いて、寄付をした患者さんのスピーチがあった。これが、感動的であった。自分ががんに罹患した時から、今日に至るまでの苦労と、自分を支えてくれた家族や医療関係者に対する感謝を、涙で声を詰まらせながら語った姿に心打たれた。そして、幾度となく「希望」という言葉を口にした。米国と日本のがん医療の最大の違いが「希望」という言葉に集約されると、改めて感じた瞬間でもあった。

 

そして、ストック教授の講演に移った。普段の比較的ひょうきんな彼女を知っているので、そのギャップの大きさも手伝ってか、彼女の講演は久々に強く印象に残った講演であった。話は、16-20歳の白血病患者が、小児腫瘍臨床医によって治療を受けるか、成人の腫瘍内科医によって治療を受けるかによって、生存率が大きく異なることに疑問を持ったところから始まった。臨床医の研究は、この現場感覚が大切だ。論文を書くネタを漁って論文を書くことだけを最終目的で研究を始めるのではなく、自分が直面した臨床現場での問題点を解決するために研究をする。これも日米の医学研究者の差が大きい部分だ。

 

小児白血病患者の抗がん剤治療を16-20歳の患者に適応したところ、生存率が格段に改善されたという成果話す時、彼女はどこか誇らしげであった。彼女はその研究をリードしてきたのだから当然だが。ストック教授と話をする度に感ずることは、患者さんに対するパッションだ。一人でも多くの患者さんを救いたいという純粋さが伝わってくるのだ。多くの医療関係者がこのような純粋さに感作され、患者を救いたい気持ちの大きな結晶を作り上げることができれば、日本も変わることができるはずだ。

 

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上記の図は、年代別に見た白血病の5年生存率だ。着実に医学・医療は進歩しており、全体の生存率は60%になっている。さらに驚異的な数字を示しているのが、15歳未満の急性リンパ性白血病の5年生存率である。すでに90%を超えている。彼女のゴールは成人の急性リンパ性白血病も、この数字まで引き上げることだ。もちろん、最終的な目標は100%である。

 

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今、治らない病気を治したい。そのために、必至で努力と研鑽を積み重ねる。こんな純粋な気持ちは、日本の馬鹿メディアには理解できないのだろう。患者さんが涙を流しながら感謝をしてくれる、こんな医者冥利に尽きることはない。私たちが、欲しいのは、お金でも、名誉でもない。患者さんの笑顔なのだ。患者さんとストック教授の姿を目にして、私も、もう一度白衣を着て患者さんの診療に携わりたいという気持ちが強くなってきた。

 

「希望」を提供し続け、患者さんが前向きに生きることができるように最善を尽くす。それで治癒できればベストだが、たとえ、命尽きても、家族が世界で最高の医療を受けたと納得し、患者の死を悔いなく看取れる。そんながん医療が実現できないものか、心から願った日であった。