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血液中のがん細胞由来DNAで高感度再発予測

医療(一般)

今日の午後に、昨日紹介した中国人留学生の最終セミナーがあった。セミナーの最後に、この3年間の謝辞を、涙ぐんで、声を震わせながら話をした際には、私も思わず、目が潤っとしてしまった。歳のせいで涙腺が弱くなったのかもしれない。

 

彼女は2年前に大学事務のミスでビサ更新が遅れて、期限切れとなり、ご主人と小さな子供を残して一時的に中国に帰国しなければならない状況に追い込まれた。私が事務のトップに直接(もちろん紳士的に)談判に行き、帰国の旅費も、不在の間の給与も、大学が負担することになった。もちろん、ビザの手続きに、最大限の支援をすることも。1か月間ほどかかったが、無事にシカゴに戻ることができた。私とすれば上司として当然のことをしただけだが、それを今でも感謝してくれている。

 

私が、彼女が辛い時に励まし続けてくれたお礼にと言って、陶器製のてるてる坊主をプレゼントしてくれた。頭がテルテルに近づいてきたので少し気になったが、太陽のように、そして父親のように暖かく見守った意味だと信じたい。最後の最後に、みんなの前で抱きつかれてハグをされた。アメリカに来た当時には抵抗があったが、今は、戸惑いながらも平然と受け流した。甘い香りがして、少し、心拍数が増えていたが。

 

さて、本題だが、今週の「Science Translational Medicine」に、血液中(厳密に言うと血漿中)に混入してくるがん細胞由来のDNAを検出する方が、臨床的に(画像診断などで)再発が確認されるよりも早く転移(これも厳密に言うと、患者体内に増加してきたがん細胞の存在)を検出可能であると報告されていた。

 

研究対象は、手術前に抗がん剤治療を受けた乳がん患者であり、抗がん剤治療前のバイオプシーで(針でがん組織を突きさして)採取したがん組織を利用して、まず、がん細胞の遺伝子変異を検出した。調べた遺伝子は二百数十種類であり、それで見つかった異常を手掛かりに、がん細胞由来のDNA(すなわちがん細胞に存在していた変異DNA)が、血漿中に含まれているかどうかを高感度で調べたのである。

 

多くの患者では、術前の抗がん剤治療と手術によって、異常を持ったDNAは血液中から消え去る。しかし、一部の患者では手術直後にも異常DNAが検出されるので、目に見えない、検査でも引っかからないがん細胞がどこかに潜んでいる可能性が高い。いずれにせよ、手術直後やその後定期的に調べた血液内に異常DNAが検出されると、6-12か月後(平均7.9か月後)には、画像検査で転移が見つかったと述べられていた。血液中に異常DNAが見つからないにもかかわらず、再発が起こった患者さんも一部あったが、異常DNAが見つかった場合には、早晩、目に見える転移が確認されている。

 

径1センチのがん組織には10億個弱の細胞が存在する。10センチになると1兆個弱の細胞数となる。こんな数字になってからがんを叩き始めるよりも、目に見えないレベルで、がんを叩く方がいいに決まっている。当然ながら、手術療法や放射線療法など使えない。相手が見えないのだから、捕まえて叩くしかない。分子標的治療薬を含む抗がん剤療法か、免疫療法を利用するしかない。

 

米国では遺伝子診断企業がたくさんあるが、日本では、この手の研究が完全に遅れている。画像診断よりも早く(半年以上も早く)手が打てれば、一部の患者さんは助けられるかもしれない。こんな簡単なロジックが自然と受け入れられる米国と、なかなか進まない日本。起爆剤が必要だ。

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