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医療費と平均寿命

医療(一般)

最近、子供の炎症性腸疾患に関するセミナーがあった。抗体医薬品によって、患者のQOLが劇的に改善されたという、すでに既知の、あまり科学的には興味を引かない講演であった。演者はカナダ・オンタリオ州の病院で勤務しており、シカゴ大学の聴衆の最初の質問は、高額な抗体医薬品を投与することが保険でカバーされるのかどうかであった。演者の勤務している州では、公的な補助によって賄われてるそうだが、米国では加入している保険によっては、患者さんに提供できない。貧富の差によって、治療法の選択肢がことなってくる。

米国では医療費が驚くほど高額であることは前にも触れた。しかし、国民全体で見ると医療費の高さが、医療の質の高いことを保証しているわけではない。2007年のOECD(Organization for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)のデータによると、一人当たりが支払っている医療費の平均値と寿命との間には相関が認められる。ただし、桁外れに例外の国があり、それが米国だ。

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他の国はX=Y軸に並んでいるが、米国だけが極端に右にシフトした位置に存在している。平均寿命が類似した国と比較すると、一人当たりの医療費は3倍以上高い。無保険で医療へのアクセスが制限されている人もいるので、医療にアクセスできる人に限ればもっと高い。過去50年間に、米国のGDPは2.7倍になっているのに対して、医療費は約9倍になっている。また、米国での15-19歳の死亡原因を見ると、男女とも3大要因が、事故、自殺、殺人となっており、このような要因が平均寿命を押し下げている一因となっている。

逆に日本の場合、医療が必要とされる高齢者の割合が多いにもかかわらず、同じように医療費の国と比較すると、平均寿命はかなり高くなっている。類似の公的医療保険制度のイギリスと比較すると平均寿命は3-4年長く、低コストで質の高い医療を提供していることが窺える。

ただし、高齢化に伴うがん患者数の増加と高額ながん治療費(医薬品、種々の診断機器・放射線治療装置)は、今後の医療費の増加につながることは確実である。3週間に1回で約2百万円の治療薬の適応癌腫が広がれば、治療費は加速度的に拡大する。また、認知症の増加に伴う、家族を含めた介護の負担増も必然となる。このような状況であるにもかかわらず、今年度は、医薬品・医療機器の輸入超過(貿易赤字)が年間2兆5千億円に達すると推測されている。今の取り組みでは、医療の質を保った公的医療保険制度の維持は不可能に近くなってきている。

これに対する有効な対策が打たれていない現状は、悲劇を通り越して、惨劇に近づきつつある。