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「がん細胞 対 免疫細胞」の闘い(1)

ここ4-5日は30度を超える気温で、ようやく夏の気候だ。今週はこのまま推移しそうで、私の好きな夏の晴れ晴れとした気候になってきたが、患者さんからのメールを受け取るたびに、心の中に霞がかかる。昨年10月の論文公表以来、日本だけでなく、イギリスやギリシアなどのヨーロッパ各国、そして中国などから数百通の問い合わせをいただいた。

今日もオランダから、「カナダに住んでいる妹に・・・・」と言ってメールが届いた。すべてのメールに返事をお送りしているが、「まだ、臨床試験の準備ができていない」と返答すると、3回に1回は「回答に対するお礼」に加え、「応援メッセージ」が返ってくる。残りは何も言ってこないが、失望しているに違いない。ほのかな灯りを見出してメールを送っている患者さんや家族の希望の灯をすぐに消すことに、いつもためらいが残るが、無回答よりもいいと考えて返事を送っている。それが失望につながることが確実でも。

しかし、自分一人ですべてできるはずがないとわかっているものの、もどかしさは拭えない。自分を納得させようとしても、何とも言えない罪悪感が残ってしまう。若い時なら、「憎きがん細胞、今に見ていろ」と闘志をかきたてるところだが、最近は「申し訳ない」気持ちが優ってしまう。闘志をぶつける相手もいなくなったからかも知れない。

パワハラと非難を受けるような指導法を貫いて、銅メダルに導いた、シンクロの井村コーチのスパルタ精神が懐かしく思える。厳しさに耐えてメダルを獲得した選手たちは立派だと思う。私の周辺の人たちの多くは、檄を飛ばしても、無反応だ。かつては、熱い気持ちが伝わったが、最近は中が真空のグラスのように熱が伝わらない。甘くすることが優しくすることだと信じている人たちと向き合うのは難しい。

あまり愚痴っていても生産的でないので、ここで、気を取り直して、がんの基礎と「がん細胞と免疫細胞との戦い」の現状を2回にわけて、改めて振り返ってみたい。

正常な細胞が、がん細胞に変わってしまう段階では、がん細胞の中で「がん化を抑える勢力」と「がん化させようとする勢力」の戦いがある。前者はがん抑制因子(遺伝子)であり、後者はがん化促進因子(遺伝子)である。がん細胞の中では、がん抑制因子は遺伝子異常によって壊れて働きが失われ、がん化促進因子は遺伝子異常によって働きが格段に上がっている。車にたとえると、フットブレーキ、サイドブレーキ、エンジンブレーキが機能しなくなり、エンジンが歯止めなく吹かされ、ハンドル制御できなくなったのが、がん細胞である。

さらに細胞の中には、遺伝子が壊れないように監視役をしているDNA修復遺伝子がたくさんある。タイヤ、エンジン、電気系統、オイル関係など、さまざまな角度で監視して故障しないように整備している係が、DNA修復遺伝子に相当する。この監視して整備する仕組みに異常があると、遺伝子に異常が起こりやすくなるため、がんができやすくなる。その代表例が遺伝性乳がん、遺伝性大腸がんなどである。日本という国を見ていると、監視役のメディアが監視機能を失い、かなり壊れてきているので、このままでは国ががん化してしまいそうだ。

正常細胞からがん細胞になる過程での、細胞での内なる戦いに加え、がん細胞とそれを取り巻く免疫細胞との攻防はなかなか複雑である。私が大学時代に教わった免疫学は至って単純だったが(単に授業にまじめに出席していなかったからかもしれないが)、今は、頭の中が混線しそうなくらい複雑で、予習・復習を繰り返さないと、正しく整理できないし、知識として残らない。もう少し、しっかりと勉強しておいたらよかったと後悔しきりである。

しかし、ここで単純に整理すると、免疫には「自然免疫」と「獲得免疫」がある。「自然免疫は」は生まれつき備わっている免疫の仕組みであり、「獲得免疫」はいろいろな病原体やワクチンに対して反応した結果として備わったものである。いま、がん治療の分野で注目されているのは「獲得免疫」で、「がん細胞を敵と見なして攻撃する免疫」を利用した治療法である。(続く)

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