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米国FDAとレギュラトリーサイエンス

米国の医薬食品局(FDA) や日本の医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、医薬品や医療機器の承認審査業務などを行う行政機関であり、「規制当局」とも呼ばれてきた。医薬品にしても、医療機器にしても、安全性を最優先する必要があるのだから、「害を及ぼすもの、危ないもの、役に立たないものを取り締まる」のは当然だ。しかし、新しい技術・知識の発展によって、革新的な医療技術・医薬品・医療機器が生み出され、それらを速やかに評価し、かつ、安全に患者のもとに届ける支援をすることが求められるようになってきた。

今日の「Science Translational Medicine」という雑誌に米国FDAに所属する二人の研究者が、「FDA as a catalyst for translation」(意訳になるが、「FDAは新しい発見を患者に届ける触媒となる」といったところか?)のタイトルで、米国FDAの役割や今後のビジョンを公表した。

The FDA’s mission to protect the public health includes ensuring the safety and efficacy of drugs, biological products, and medical devices, as well as the safety of our nation’s food supply, cosmetics, and products that emit radiation (www.fda.gov)とあるように、FDAの主なミッションは、国民を守るために、医薬品・医療機器などの安全性と有効性を保証することである。

 

今日の論文では、これらに加え、新しく生み出されたものを速やかに、円滑に届けるためのルール作りをするために「Regulatory Science」 の重要性を謳っている。日本ではRegulationという言葉は主に「取り締まり」・「規制」と受け止められがちであるが、レギュラトリーサイエンスには「調整」「規定」というニュアンスに重きが置かれている。

 

米国FDAは2011年にレギュラトリーサイエンスの重要項目として下記8項目を提唱している。

  1. 医薬品の安全性を高めるための毒物学の近代化 2. 医薬品開発と患者さんの生活を改善するための臨床的評価法や個別化医療改革を推進 3. 製品の製造過程やそれらの品質を高めるための新しいアプローチの導入 4. 革新的な技術を評価するためのFDAの体制の強化 5. 健康を維持するための、情報科学による多様なデータの活用 6. 公衆衛生を目的とした、予防に焦点を置いた新規食品安全管理システムの導入 7.国内ならびに国際的な、健康や安全に対する脅威となるような事態を回避するため、医学的対抗策の開発を促進 8. 消費者や専門的な職にある人が、規定に定められた製品について、正しい情報に基づいた判断ができるのを支援するための社会行動科学分野の強化
  2.  

となっている。医薬品や医療機器だけでなく、食料の安全性やテロ対策も盛り込まれているが、革新的な技術の進歩に応じた対策が盛り込まれている。利益と不利益のバランスを考えないと、革新的な医薬品や医療技術は、日本からは絶対に生まれないと思う。

 

そして、いかにして科学的なエビデンスを積み重ねることが必要か、具体的な例が挙げられている。生命科学の進歩によって、20世紀の終わりと比べても、われわれの体や病気に関する情報が格段に増えている。2000年時点でも、ヒトゲノム情報は解明されていなかった。1990年から始まったヒトゲノム計画では、10数年間の歳月と1000億円の費用をかけてヒトゲノム暗号を読み解いた。それが、今は1週間、数十万円で簡単にゲノム情報を入手することができる。がんで起こっている遺伝子異常に関しても、膨大な情報が蓄積された。日本の貢献が非常に限られたものであることは、以前に紹介した。

 

がんの分子標的治療薬も、これらの情報に基づいて開発されたのであるから、臨床試験を実施する場合には、これらの情報に基づいて患者さんが選択されるべきであり、これまでの臨床試験とは質が異なってくるのは当然である。また、抗がん剤はがんが小さくなったかどうか、患者さんがどれだけ長く生きたのかなどの、数値が指標とされ、どのように生活の質を保ったのかがほとんど省みられなかった。3ヶ月長く生きたが、その間、あるいはそれ以上の期間、抗がん剤の副作用に苦しみ、ふとんに横たわっているだけで、薬が効いたと言えるのかどうかを考える必要がある。アップルやグーグルなどのIT企業が小型機器を開発して、生活の質を客観的にいろいろな指標で捕らえることも可能になってきた。

 

今頃、ゲノム医療が重要だといっているようでは、もはや時代錯誤も甚だしい。ゲノムだけではなく、多種多様な情報を駆使して、病気を予防し、治療する時代になっている。小型のドローンから地上を眺める時代ではなく、人工衛星から地球全体を眺めるような視点を持たなければ、日本の「ガラバゴス化」はもっと進むに違いない。

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