ホルモン抵抗性腫瘍にホルモン投与療法?!

明日から、2週間にわたって日本での長期ロードが始まる。シカゴに来て以降、最も長い日本滞在になる。この間、膵臓病学会、札幌がんセミナー、東大―シカゴ大学連携シンポジウムなどを含めて、約2日に1回の頻度で講演会を行う。英語と日本語、専門家や一般の方など対象も異なるので、スライドの準備が大変である。

 

しかし、先週金曜日から、虫歯でもない歯に、突然に強烈な痛みが起こった。日本から持参した鎮痛剤と抗生物質で様子を見ていたが、日曜日の明け方まで鎮痛剤も効かない状況で七転八倒だった。そこで仕方なく、こちらで処方されたイブプロフェン1錠800㎎を服用した。日本では、成人は1日量600mgを3回に分けて経口服用するとあるので、1回分にすると4倍量なので躊躇したが、頭まで突き抜けるような痛みに耐えられず、清水の舞台から飛び降りる気持ちで服用したのだ。

 

すると、なんとなくボーとした感じがしたが、痛みは和らぎだした。痛みに比べれば、少々フラフラしても、ましだ。月曜日にかかりつけの歯科医に頼みこんで治療してもらい(自慢できないが大得意客なので、すぐに予約が取れた?)、ようやく一息を得たところだ。講演会の準備を急がねばならない中での2日間のロスは大きく、予定が大きく遅れている。今日は朝から必死で準備して、ようやく目鼻がついてきた。集中することの重要性を再認識した。あとは、飛行機の中と日本国内での移動時間でできるだろうと思う(ブログを書く余裕があるのかどうか疑問だが?)。少し、楽観的かな?

 

それでも、勉強は大切なので、外科の前立腺がんに関するセミナーに参加した。泌尿器科医にはよく知られていることかもしれないが、逆転の発想で、私には「目からうろこ」だった。前立腺がんの標準的な治療法は男性ホルモンの働きを抑えることである。シカゴ大学のチャールズ・ハギンズ教授はこのホルモンを抑える治療法を始めて、1966年にノーベル生理医学賞を授与されている。大多数の前立腺がんはホルモン療法が効果的であるが、一定期間を経て、ホルモン療法に抵抗性となり、がんが増悪する。

 

このホルモン療法抵抗性前立腺がんに、男性ホルモンを投与すると、半数前後の患者では、腫瘍マーカーが下がり、ホルモン療法が再び効果を示すというのは驚きだ。仕組みとして、男性ホルモン投与によって、がんの性質が変化することが紹介された。また、男性ホルモンの働きを抑えると、活力・気力が失われ、脱毛などが起こり、生活の質が低下するが、それが改善されるようだ。

 

今は、男性ホルモンの働きを抑えながら、時々、男性ホルモンを注射する治療法が試みられている。男性ホルモンの投与によって、腫瘍マーカーが増える患者がたくさんいるので、日本では受け入れられないかもしれない。また、全員がホルモン抵抗性がんから、ホルモンに効きやすいがんに変わるわけでもない。効果がある患者さんとそうでない患者さんをあらかじめ選別できないのも、問題かもしれない。

 

いずれにせよ、研究室で得られた科学的な知見が、臨床で検証される(できる)のが日米の格差だ。日本では、臨床試験で差が出ないとエビデンスがないと信じこんでいる基礎科学音痴が幅を利かせているし、医療メディアも科学音痴だから、なおさらだ。医療現場も理解できる基礎研究者、基礎研究が理解できる臨床腫瘍医の育成が重要だと改めて思う。

f:id:ynakamurachicago:20150617114045j:plain