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がん医療のパラダイムシフト:遺伝子変異に基づく「がん治療」

医療(一般)

米国癌研究所(National Cancer Institute)が「ゲノム変異に基づく治療」イニシアチブを公表した。ワシントンポスト、ウオール・ストリート・ジャーナル、ロサンゼルス・タイムズ、ロイターなども報じている。これまでのがんの分類は、肺がん、胃がん、乳がんなどがんが最初に生じた臓器別、あるいは、顕微鏡で観察した細胞の形に基づいて行われていた。

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臨床試験なども、それぞれの臓器別に行われていた。したがって、患者数の多いがんでは、製薬企業は経済的メリットが大きいので、新薬の開発が積極的に行われた反面、患者数の少ないがんでは、製薬企業が興味を示さず、臨床試験が行われず、薬剤の承認が行われない=薬が患者さんに届かない状況が長く続いている。

 

この臓器別の考え方を大きく変えるパラダイムシフトを国全体で行おうとするのが今回の試みの基本的精神である。1月にオバマ大統領が記者会見で説明した「Precision Medicine」イニシアチブを推進するための旗艦的プロジェクトである。21世紀になって、遺伝子の異常に応じた治療薬、分子標的治療薬、が開発され、遺伝子診断と治療薬がセットになって治験が行われるようになった。今回は、がんの発生した臓器に関わらず、遺伝子診断によって遺伝子異常が見つかれば、治療薬を投与する試みである。

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当然ながら、科学的に理は適っている。ただし、古い統計学的方法に固執している頑迷な臨床腫瘍医は、患者数の少ないがん腫では有効かどうか評価できないと反論するだろう。HERという遺伝子異常のある乳がんは、悪性度が高く、患者さんの予後は悪かったが、ハーセプチンという薬剤の開発によって、治療成績は大きく改善した。科学的な理屈から言えば、他の臓器のがんでも、HERに異常があれば効果の高いことが期待される。実際、胃がんで実証された。しかし、患者さんを2群(薬の投与群と偽薬投与群)に分けて統計学的に実証しなければエビデンスでないと信じて疑わない医師には、がんの基礎医学の理屈が通用しないのである。

 

日本の診療体制は臓器別になっているし、頭の固い腫瘍内科医では、この大きな流れについていくことができないと思う。四の五のと理屈を付け、自分の利権を守ろうとしていては、医療の最大の目的である患者の利益を優先した基本的精神に立脚した発想ができない。是非、若手の心ある臨床腫瘍医は、患者さんのために、日本のために立ち上がって、下剋上を起こして欲しいものだ。

 

と気を揉んでいても何かができるわけではないので、余計に日本の現状にいらだちを覚える。せっかく、日本の健康や医療を主導する組織ができたのだし、日米の政治環境も非常にいいので、日米「Precision Medicine」プロジェクトを現政権下で進めてほしいものだ。安倍総理、次回はシカゴのオバマ大統領の私邸で会談を実現して、記者会見でこのプロジェクトを公表してください。

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