高額医療費と高額医薬品

ワシントンに行く予定が、取りやめになった話を前回紹介したが、これには続編があった。日曜日の夜中、正確には、月曜日の夜明け前に、上腹部痛と吐き気で目が覚めた。これには思い当たる節があった。空港のラウンジで食べた「寿司もどき」である。本来ピンク色であるはずの魚が、少し紫がかっていた。一口食べた時に少し違和感があったが、チーズと一緒に巻かれていたので、このようなものかと思った。しかし、2個目、3個目と進むと違和感がさらに強くなり、残りの5個を食べずに捨てた。夕食の食材の可能性はないので、これに違いないと思ったが、後の祭りだ。

 

月曜日は吐き気と胃の痛みで調子が悪かったが、メールが普段の2倍くらい送られてきたので、対応していた。本当ならば、NIHにいてメールなど頻回にチェックすることができなかったはずなので、ゆっくりしていればいいと思うが、性分だから仕方がない。明日でもいいことは、明日すればいいと放置できないのだ。今できることは、今すぐに片付けないと落ち着かないのだ。損な性分だと思うが、忙しい業務を人に迷惑をかけずに熟せてきたのは、こんな性格だからと自分を納得させるしかない。

 

とにかく、今週は忙しかった、本の全チャプターを仕上げることを目標にパソコンの画面にかじりついたままだった。これに論文、複数のスカイプ会議、今日など9件も予定が入っていててんてこ舞いだった。しかし、論文も3編投稿できるまでに終え、本も、チャプターを1本残して片付いた。特にこの6週間ほど、本の原稿校正に追いまくられた感がある。「Immunopharmacogenomics」(免疫薬理ゲノム学)、あと何年シカゴ大学で勤務するかわからないが、シカゴ大学に在職していた証になる人生の記録となる1冊である。

 

その片手間に、シカゴ大学で始める治験について、医師研究者が私に相談に来た。治療の前後にバイオプシーを取って、免疫細胞を調べたいと思うが、と私に意見を求めてきた。私の答えは、単に科学的な観点からはイエスである。しかし、以前にバイオプシー(針などで、がんなどの患者試料を取ること)をすると、とんでもなく高額であったことを思い出した。「イエス」と声が出かけたが、私の頭が急速に回転して、私の意思を確認することもなく、「どれくらい費用がかかるのか確かめてからにしたら?」と弱々しい返答にすり替えてしまった。

 

調べてもらったところ、CT画像を手掛かりにバイオプシーするのは、医師主導型試験(会社が費用を出すのではなく、医師が自分、あるいは、公的な研究費で治験をする)を考慮して割り引いても、1件8000ドルはするという。一人1回100万円???簡単に安請け合いの返事をしなかった、私の脳細胞に感謝するしかない。30人の患者さんだと、一人で2回、計200万円、全部で6000万円となる。こんな金額を出費すると研究室は破産だ。

 

最近は、効果を予測するマーカー(目印)を見つけるために、患者さんのがんの試料を調べることが必須となってきている。しかし、このような高額費用では世界的大製薬企業で大きな資金を投入できるところでしか、こんなことができるはずがない。最近のデータでは、一つ薬を世に出すには1500億円近くかかると報告されていた。これだけ費用がかかれば、医薬品の価格が高騰するはずだ。そして、ある医薬品と新薬を比較する試験をすると、比較対象とする医薬品の費用も負担しなければならないので、費用が更にかさみ、治験にかかる費用はもっと膨らんでくる。そして、新規医薬品はその影響でさらに高くなる。

 

この循環が繰り返されれば、米国では医療費を負担できない人が増え、公的医療保険の日本のような国では、個人の負担を増やすか、税金を増やす方法を取らない限り、賄いきれない。医療の質を落としても構わないなら別だが、医療費をどのように負担していくのか、真剣に議論しないと、医療経済は破綻する。

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