読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

医師が「医師免許が必要な仕事」に集中できる体制を

医療(一般)

4月の下旬は東京の冬のような気候だったが、週末は、快晴で気温が急上昇し、27度まで上がった。初夏のような気候で、半袖姿で歩いていた人も多かった。私も、土曜日の午後には大学構内をゆっくりと散歩してきた。色とりどりの花が咲き、枯れた芝生の張替も行われていた。芝生の手入れやきれいな花の植え付けなど、日本の大学ではここまで経費をかけることができない。「豊かさの違い」では語れない発想の違いがあるように思う。大学内の建物のメインテナンスを比較しても大きな差がある。ここでは築100年の建物でも内部は非常に美しく維持されているが、日本の大学の建造物など20-30年すると内部の傷みが目につく。

 

発想の違いと言えば、今日の昼食時にあったセミナーでも、文化の違いを感じた。またしても、免疫療法の話で、4月から今日までの約5週間で、シカゴ大学で10回近く免疫療法の講演を聞いたことになる。その有効性については、もはや紹介するまでもないが、今日、文化の違いを意識したのは、PD―1抗体とCTLA-4抗体を二つ使った治療法で起きた有害事象による死亡事例の話である。

 

これらの二つの抗体は作用する機序が異なるので、二つ併用するとその有効率も、予想通り相乗的であった。より高い効果が認められ、悪性黒色腫(メラノーマ)の治療成績が各段によくなった。当然ながら、免疫抑制効果がなくなってしまうので、普通ならば抑えられている免疫過剰反応による自己免疫病のような副作用の発生率も90%の症例で出現し、その3分の1程度はかなり症状が重い。それだけでも、偏向した新聞社なら大騒ぎしそうだ。

 

正確な症例数は記憶していないが50症例前後で、3例で有害事象による死亡が発生したと報告されていた。馬鹿な記者は、治験中の有害事象と薬剤による副作用の区別がつかないので、きっとと治療によって死亡が起こったと新聞の第1面で鬼の首を取ったように、治験に携わった医師と製薬企業を糾弾するだろう。有害事象は治験をしている時に患者さんに生じたすべての有害な出来事を意味し、がんが進行して起こった症状もそれに含まれる。したがって、「有害事象=副作用」ではない。治験を受けるがん患者さんの大半は、いろいろな治療法が効かなくなった、がんが非常に進行した状態であるので、当然、多くの有害事象が起こる。死亡例の原因は、免疫異常では説明がつかないので、もちろん、有害事象であっても、副作用とは断定できない。それでも、副作用は否定できないとの記述になるが、無知な記者は、副作用に違いないと、自分の思い込みを優先させるだろう。

 

被験者の保護などと理屈をつけるが、限られた命を宣告された患者さんや家族の生きる希望などまったく忖度しない。自分の正義感を振りかざして、患者さんの生きる希望を奪う「記者と言う看板を身に着けた偽善者」には本当に今でも腹が立つ。「利益と不利益」、「希望と絶望」を正当に評価することなく、自己の主張を通すために「利益」「希望」を故意に摘み取って、「不利益」と「絶望」を誇張する歪んだ記者がいる限り日本でまともに治験が進むはずがない。

 

と、なんとなく腹立たしいで帰ってきてネットニュースを見たら、またまた、偏向新聞が「福島県立医大の研究が国の倫理指針違反 内視鏡手術データ比較」という見出しの記事を発信していた。読んでみたが、本当に救いようのない記事だ。こんな事例を問題にしたら、日本中がパニックになるだろう。三流雑誌のゴシップ記事以下だ。医療は、治療法を比較することで進歩してきたし、外来や入院した患者のデータをまとめて、優劣をつけることは医学の進歩に必要だ。

 

「出血量や手術時間などを比較すること」を患者さんに承認を取っていなかったことが問題だとしているが、手術時間や出血量など日常診療の話で、このようなデータを比較することまで承認を得なければならないとは、「こいつらはアホか」と言いたくなる。臨床研究のガイドラインというが、こんなことまで求めるならガイドラインが悪い。記事を書いた人間は単なる重箱の隅をほじくっているだけで、医療の常識・知識も倫理的思考のかけらもない。

 

医師が医師でなくともいい仕事に追いまくられる状況を作っているのが、現場を知らない人たちが作ったガイドラインだ。医師が医師免許を持った人間でしかできない仕事にもっと集中できなければ、日本の医学の進歩は望めない。みんながドクターXになって「医師免許の必要がない仕事は致しません」と宣言したらどうかと思う。医師が医師としての仕事に誇りを持つ、そんな日が来てほしいものだ。

f:id:ynakamurachicago:20150505113717j:plain

f:id:ynakamurachicago:20150505113224j:plain