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生体肝移植報道に見るメディアの愚

神戸国際フロンティアメディカルセンターでの生体肝移植が話題になっている。このセンターで生体肝移植を受けた患者8人中4人が死亡した件で、「生体肝移植に適さない患者や臓器提供者(ドナー)に手術したケースがあることが関係者への取材でわかった。」と報道されていた。しかし、この報道を読んでいて感じるのは、いつまでたっても成長しない報道姿勢である。

 

病院長の田中紘一先生は、生体肝移植の世界的権威ではないか。生体肝移植では世界の第1人者と言っても、誰からも文句が出て来ないほどの日本が誇るべき医師である。私は京都大学で教授をされていた際に、講演を依頼されてお伺いしたことがある。教授でありながら、週に何回も当直されていると話されていたことが印象に残っている。健康な人間を傷つけることを非難されながらも、子供さんを見殺しにできないとの強い意志で奮闘された。日本という特殊事情の中で、生体臓器移植を確立された、外科医の中の外科医と、私が尊敬している人物の一人である。

 

講演の後、先生が行きつけのカウンター式の小さな中華料理屋で餃子をごちそうになり、その後、「忙しい中わざわざお越しいただいて申し訳ない」と言って、自らハンドルを握って京都駅まで送っていただいた。こちらこそ、お忙しい中、こんなことをしてもらってよかったのかと、帰りの新幹線の中で反省した。もちろん、そのお人柄に、ますます惹かれたものである。

 

しかし、この第1人者に対する、常識に欠けた報道は目に余る。「専門家によると、進行した悪性腫瘍は通常、移植の対象にできないうえ、この手術は高難度で負担が大きく、回復力が衰えた病状で、死亡するリスクがある生体肝移植は適さないと考えるのが一般的だという。」とあった。誰だ、この専門家とは?専門家なら、堂々と自分の名前を出せと言いたい。

 

悪性腫瘍で確実に死が待っている患者さんは、そのまま死を待てというのか。通常できないことにチャレンジしつつ、医療は進歩し、通常の範囲を広げてきた。高難度で負担が大きいからという言葉の裏には、「失敗確率が高いから、何もしないで自分の身を守ろう」という気持ちが透けて見えるような気がする。100%確率の死と10%確率の希望がある場合、そして、患者さんがリスクを覚悟で臓器移植を望み、臓器提供することを承諾している家族がいても、10%の希望を捨てて、100%の死を選ぶべきだというのか!もし、8人の患者すべてが非常に悪条件なら、4人も救われているなら立派ではないのか。

 

施設ごとの治療成績などというまやかしに躍らされているから、医師や医療機関はだらしなくなってしまった。表面的な数字で評価されるから、合併症の可能性が高い患者さんを敬遠して手術対象とせず、治療成績を競うのだ。その結果、必死で患者さんを救おうという気持ちが薄れていることに馬鹿メディアは気づかないのか。リスクが高い患者には何もしない。高齢のがん患者が見捨てられる要因のひとつだ。

 

報道している人たちは、心臓移植や骨髄移植の歴史を少しでも勉強しているのかと問いたい。これらの移植を開始した当初の治療成績は悲惨なものだった。日本で新しい医療技術や治療薬が開発されない一端は、このようメディアの姿勢にある。医学の進歩のためには、結果としての数字ではなく、プロセスを科学的・客観的に評価しなければならない。

 

また、脂肪肝はリスクが高いから移植には適さないことなど、田中紘一先生なら百も承知だ。きれいごとを言うのはいいが、では誰が肝臓を提供してくれるのだ。臓器移植提供者がいなければ、患者さんは100%亡くなってしまうのだ。リスクゼロを第1義と考え、結果的に座して死を待てというのか!

 

脳死移植には反対する一方で、小さな子供に臓器移植のお金が必要になれば募金活動に協力し、そして、元気で帰ってくれば美談に仕立て上げる。手遅れで亡くなれば残念だった。残念なのは誰の責任だ。脳死移植に反対した自分たちに責任はないのか。そして、難しい手術に挑んで結果が悪ければ、医療機関を悪者に仕立て上げる。この支離滅裂な報道姿勢には、いつもながら、本当に頭に来る!頑張れ、田中先生!

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