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腫瘍免疫ゲノム学-10;米国癌学会(2)

忙しいので、3日間だけ参加してシカゴに帰ってきた。2000年くらいまではアジア人では日本人が圧倒的に多かったが、今は、中国人が圧倒的に多い。企業の展示ブースを見ても、数年前まではほとんど皆無であった中国の企業の展示が増えている。米国癌学会も積極的に中国との連携を探っている。米中の関係が深まれば、日本など沈んでしまう。

 

学会では免疫療法の人気が圧倒的に高かった。オープニングのセッションでも半分が免疫療法だし、午後の免疫療法のセッションも会場があふれんばかりだった。私も免疫療法がここまで急速に広がるとは思っていなかった。数年前までは、分子標的治療法が花盛りであったが、完全に様変わりした。最大の要因は、分子標的治療法はいったん効いても(腫瘍が縮小しても)、増悪し始めると、一気に悪化してしまうが、免疫療法は効果を示す期間が長い。もちろん完全消失する例も、一部の分子標的治療よりもかなり多い。

 

これまで免疫療法に携わってきた研究者や医師たちは、分子標的治療法に携わってきた臨床腫瘍内科医の陰で肩身の狭い思いをしてきたが、今は、チェックポイント抗体療法の臨床試験をしている医師たちが、表現はよくないが、肩で風を切って歩いている。「実るほど頭が下がる稲穂かな」など関係ない人が多いようだ。そうだ、勝てば官軍だ。

 

しかし、どんな治療法でもそうだが、全員に効果があるわけではない。がんの種類のよって効果は異なり、ホジキンリンパ腫の有効率(腫瘍が小さくなった患者の割合)85%から、ほとんど効果のない大腸がんまでいろいろだ。当然ながら、どのようにして患者さんを選ぶのか、これからの重要な課題だ。まさに、「Precision Medicine」の時代なのである。

 

敵の特徴や行動パターン、味方の戦力の特徴などを知らずして、戦いに勝てるはずがない。がんをよく知り、がん組織という戦場での状況を把握し、薬や免疫細胞などの味方の詳細な戦力を熟知して戦いに挑むのだ。先日、シカゴの科学博物館でノルマンディー作戦を紹介する短編映画を見たが、この戦いの勝利には、連合国の膨大な戦力以外にも重要な要因がある。占領されていたフランス国内での内通者である。彼らの存在なくしては、あれほどの劇的な勝利は収められなかったであろう。がん組織の内部や周辺にいる味方をうまく使うのだ。

 

放射線療法、化学療法、抗体療法、これらの外から攻撃する力だけではなく、患者さんの体内にいる味方をいかに増やしていくのか、それらを総合して考えていくシステムが不可欠だ。今後のがん医療は、間違いなくその方向で進む。

 

研究者・医師・規制当局・企業・メディア(このメディアについては常に強調したい)などが足の引っ張り合いをするのではなく、がんを治すために何をすればいいのか、社会全体の仕組みを考えていかなければならない。その観点から最も印象に残ったのは、Regulatory Science and Policy Session「Breakthrough Therapies and Beyond」だった。このセッションでは、FDAの担当者と開発に携わった医師がペアで話をする。FDAの担当者は、自分がその薬剤の開発に貢献したことについて誇りを持って話をしていた。自分が、安全性に留意しつつ、患者さんの利益と不利益を客観的に議論して、薬剤承認に寄与できたことが、彼ら・彼女たちの誇りなのだ。内容も理解せず、揚げ足を取ることの多いどこかの規制当局とは大きな違いだ。

 

オールジャパンの必要性が問われる中で、海の向こうから眺めると、ますます、学閥的な色彩が強くなってきたように映ってしまうのは、気のせいか?学会での日本人の存在感があまりにも無いために、落ち込んでいるせいなのか?

 

こんなことを考えているときは碌なことがない。帰りの飛行機は、30分遅れた上に、席は3人並びの真ん中。また、搭乗順序が後回しのため、荷物を棚には置けない。仕方なく、足元に置いたが、足が伸ばせない。肩も腰も凝ってしまった。ユナイテッドもアメリカンも、ほとんど乗らないのでマイルがたまっていないし、もともとサービス精神などない国だから待遇が悪く大変だ。日本ではこんなことはなかったので、結構これは体に堪える。

 

おまけに、着陸後もゲートが空いておらず、20分も待たされた。その上、すぐに着くというメールがあったにも関わらず、コートもなく、寒い中(8度)で待っていたのに、リムジンは待てど暮らせど来ない。15分後、ドライバーに直接、電話をしたが、会社からの連絡を見落としていたようだ。着た時に叱りつけようと思ったが、ドライバーは珍しく低姿勢、おまけに18か月前にアフガニスタンから来て苦労している話を車内で聞かされた。乗車前にはチップなど絶対に払ってやるものかと思っていたが、降りる時、「頑張って」と言って、思わずチップを払ってしまった。会社にも、もちろん、苦情は言わない。

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