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腫瘍免疫ゲノム学―8

今日、シカゴ大学で「Cancer Immunotherapy(がん免疫療法)」と称するシンポジウムがあった。朝8時から午後5時までの長丁場だった。演者にはJames Allison(MD Anderson Cancer Center)、Nicholas P Restifo(National Cancer Institute)、Antoni Ribas(University of California Los Angeles)、Alexander RudenskyとMichel Sadelain(Memorial Sloan Kettering Cancer Center)、Robert D Schreiber(Washington University School of Medicine)など、この分野で高名な研究者が含まれていた。

7-8年くらい前までは、免疫療法と言えば、ネズミのがんを治すだけで人には役立たないという批判が強かったが、今やそんな批判は皆無である。免疫を抑えてがん細胞を守るT細胞(制御性T細胞)の働きを抑える抗CTLA-4抗体療法、がん細胞自身が免疫から逃れるための仕組みを抑える抗PD-1抗体療法は、人での治療効果が確認されているので、文句を付ける研究者いれば「見識がないと批判を受ける」時代となった。

しかし、これらの免疫チェックポイント抗体療法の効果は、がんの種類によって大きく異なる。メラノーマ、肺がん、腎臓がんでは15-30%の患者で効果があるが、大腸がんやホルモン抵抗性となった前立腺がんなどではほとんど効果がない。抗CTLA-4抗体療法と抗PD-1抗体療法を組み合わせた場合、メラノーマでの縮小効果は60%以上となるので、二つを組み合わせた治験が一気に広がる可能性がある。

ただし、組み合わせ療法は、副作用(免疫を抑える側を抑えるので、全身で免疫過剰反応が起こり、自己免疫的な症状が発生する)が、かなりの高率で発生する。これは治療法の原理を考えれば致し方がない。免疫を抑えるステロイドで治療できるというが、ステロイドを使うと腫瘍に対する反応も減弱するので、非効率的だ。抗体療法自体が非常に高額なので、今のまま、患者さんの選別ができなければ、医療保険制度が破綻しかねない。遺伝子異常の多い患者さんでは、がん組織に入り込むリンパ球の数が多く、これらの抗体療法が効きやすい傾向にはあるが、診断に応用できるところまでは至っていない。

また、現時点でも如何わしいと思われている細胞療法であるが、TIL療法(がん組織に入り込んでいるリンパ球を取り出して、それを体外で増やして、再び、患者に戻す治療法)では改良が行われて、科学的な有効性も示されつつある。しかし、この文章が、白衣を着た詐欺師たちに悪用されないことを願っている。

チェックポイント抗体療法とワクチン療法を併用すると、抗腫瘍リンパ球の活性が高まることも報告されつつある。腫瘍特異的に攻撃できるリンパ球を誘導できれば、これら抗体療法の効果は高まるはずである。これまでに述べてきたように、がん細胞を取りまく、がん細胞を免疫の攻撃から守る側(防御側・ディフェンス側)とがん細胞を殺そうとする攻撃側(オフェンス側)とのバランスによって治療効果に差が出る。がん組織での攻撃側の準備が不十分だと、防御側を抑えてもなかなか攻め込めないことが明らかになってきているので、攻撃側を高める工夫が非常に重要となってきている。

今日の発表で臨床効果の観点から最も印象的であったのは、キメラ抗原受容体(CAR)を遺伝子導入したT細胞を利用した治療法である(がん細胞に特徴的な目印を見つけることのできる抗体とT細胞を活性化できる物質をくっつけて(キメラにして)、T細胞に遺伝子導入した治療法)。T細胞の表面にある抗体が、悪人(がん細胞)見つけてくっつき、T細胞の本来持つ殺細胞効果でがん細胞を殺す治療法である。

白血病やリンパ腫など血液細胞由来のがんに限られた話であるが、驚くべき効果を示していた。CARと一言で言っても、どんどん改良されて、今は、第3世代に当たるそうだが、20年にわたってこの研究を続けてきたSadelain教授の、淡々としながらも、その苦労が伝わる話に感動を覚えた。ちなみに、その治療効果は約30人に検証して、約90%で完全にがんが消えたとのことであった。がんを治すことが夢でない現実がそこにはあるのだ。

これらの研究者の話を聞いて、心は熱く燃えていたのだが、会場が余りにも寒くて体が凍えてしまった。会場内は寒いことを予想して、ダウンの下着を着て、それでも寒いので薄いコートを着ていたのだが、手は悴み、寒気がした。ホッカロンも用意すべきであった。暖かいコーヒーを飲んで耐えたが、頭が痛くなってきたので、最後の講演は諦めて、自宅に帰って熱いシャワーを浴びて一息ついた。

かつてシンガポールの学会に招かれたときも、油断して会場の寒さに体調を崩したことがあるが、体感温度の個体差研究は重要だと思う。沖縄の暑さが恋しい。

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