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正常人の便を十二指腸から注入する治療法?

医療(一般)

今週の内科の講演会は、院内感染症に関するテーマであった。何か新しい動きがあるのかと思ったが、主に院内での手洗いの重要性を紹介したものだった。また、最初15分間の間にスライドで提示された論文は、1960年代のもので、私が小学生の頃のデータだ。ゲノムとおう言葉は1990年前後から利用されたもので、半世紀前のものが通用することが驚きだ。

紹介されたものの中には、乳児の集中治療室で、感染した子供の手当をした後に手洗いをしてから次の乳児の治療にあたった場合には、手洗いをしないで次の乳児の治療にあった場合に比べて、他の乳児の感染率が半分程度のなるとのデータがあった。50年前には、今では常識である手洗いの重要性が十分認識されていなかったことがわかる。今なら、倫理委員会がこのような研究を認めることは絶対にない。しかし、院内感染が医療従事者の手から広がる危険性にはもっと注意を払わなければならないと改めて感じた。

少々退屈で眠りに落ちかけた頃、「便を利用して治療する」という声が聞こえた。まさか?聞き間違いと思いつつ、スライドに目を向けると「Duodenal Infusion of Donor Feces for Recurrent Clostridium difficile」と言う文字が飛び込んできた。確かに、十二指腸から便を注入するとある。Clostridium difficile(クロストリジウム・ディフィシル)というのは細菌で、抗菌薬(抗生物質)が長期間投与されていた場合に、腸内の細菌(腸の中にはたくさんの細菌が存在している)のバランスが変化した結果、このクロストリジウムが増殖し、この細菌によって生み出される毒素が、重篤な下痢を起こしたり、あるいは、腸に穴をあけたり、中毒性に結腸が肥大させることがある。

最近、友人のお母さんが、このクロストリジウム感染症による下痢や出血で大変な思いをされたところだ。腸の中にはたくさんの細菌や酵母がいる。これまでは、それらを詳細に調べることができなかったが、新しいDNAシークエンサー(遺伝暗号解読装置)によって、それらを徹底的に調べることが可能になり、腸の中にいる細菌や酵母の病気への関与が明らかになってきた。これもゲノム研究の一環として重要であるが、日本はこの分野でも取り残されている。見識のないリーダーの影響がとてつもなく大きくなってきている。

さて、タイトルの話題に戻すが、演者によって紹介された2013年のNew England Journal of Medicineの論文を読むと、この研究は途中で中止となっている。患者さんが心理的に汚いのを嫌がったり、効かなかったのかと思ったが、そうではない。このクロストリジウムに有効とされているバンコマイシンという抗菌剤よりも、便を十二指腸から注入して、腸内細菌を正常な状態に戻したほうが、圧倒的に効果が高かったからである。腸内細菌の乱れが大きな要因のひとつとは考えられていたが、なかなか試みるのが難しい研究である。日本でやろうとすると、始める前に某新聞社などが、正義と表記された仮面をかぶって非倫理的と大騒ぎしそうだ。

しかし、記憶を呼び戻すと、日本でも、アレルギー治療として寄生虫を飲ませることを提唱した研究者がいた。案外、的外れではないような気がしないでもないが、やはり科学的に証明しなければ、ワイドショーの世界で終わってしまう。

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