読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

腫瘍免疫ゲノム学―4

今朝もマイナス18度まで冷え込んだ。この温度で歩いて通勤するのは厳しいので、バスで通勤するつもりで家が出たが、定期入れを忘れたことに気付いた。風があればとても寒くて歩けないが、風もほとんどなく、完全装備していたためか、それほど寒く感ぜず、歩いて通勤できそうな気がした。バス料金はICカードだと2ドルだが、現金だと2ドル50セントとなり、小銭がないと3ドル必要だ。マンションに戻ればいいのだが、次のバスを待つのも面倒だし、無駄に1ドル払うのも悔しい(もったいない精神)ので、歩くことに決めた。しばらくすると鼻水が出てきたが、体は寒く感じない。10分くらい歩くと、体がぽかぽかしてきた。着くころには、汗が出てきた。意外に体が適応しているみたいだ。まだまだ若いのだと自分に言い聞かせて、自画自賛状態だ。

 

そして、今日は免疫学者のハンス・シュライバー教授のグループと会合を持った。彼は、故ジャネット・ローリー教授の親友だ。彼のグループは長年にわたって腫瘍特異的抗原(がんに特異的な目印)の研究に従事している。マウスの実験系では1g(人間では3kgに相当)の大きさのがんを消滅させている。私ががんペプチドワクチンの講演をした時には、厳しい指摘を受けたが、ローリー教授がシュライバー教授に私とゆっくり話をすることを勧めた結果、今は2週間に1回程度会合を持って議論している。

 

私の免疫学の知識など、シュライバー教授の足元にも及ばないが、彼は私の幼稚な質問に丁寧に回答してくれる。もちろん、ゲノム分野では私は彼のアドバイザーだ。私と彼の共通のゴールは、がん細胞を殺すリンパ球の詳細な性質を解析し、がんを治癒させることだ。彼に、「多くの人がTリンパ球の活性化」というが、「何をもって細胞障害性T細胞が活性化する」と定義するのかと質問した。「がんを殺すことのできる特定のリンパ球が増殖することか」、それとも、「それぞれのT細胞のがん細胞を殺す機能が高まることか」、「両方とも必要か」と聞くと、彼は苦笑いしながら「分裂機能を持った芽球になることだ」と答えた。すなわち、両方の機能を持つことだ。

 

たとえ、T細胞受容体が、がん細胞の目印に結合することができても、細胞を殺す機能が十分でなければ、監視機能を持った偵察部隊の細胞にすぎず、犯人(がん細胞)を目の前にして立ちすくんでいるようなものだ。彼は「がん組織に存在するTリンパ球(TIL=Tumor Infiltrating Lymphocyte、腫瘍浸潤性リンパ球)は、たとえ、がん細胞を見つけても、すでに腑抜けのようになっているので、がん細胞を殺す能力が十分でない。殺傷能力を持ったリンパ球が必要だ。」と力説した。TIL療法がごく一部の患者さんに対してしか効果がないのは、腑抜けT細胞が多いからだ。

 

彼と議論する2週間に1回のミーティングは本当に楽しい。日本では私が間違ったことを言っても、それを指摘する人はほとんどいない。彼は私より一回り以上年長だし、私の過去の実績など全く意に介しない。お互いが異なる分野でのエキスパートであるとのリスペクトがあるし、専門分野では譲らないので、学ぶことが多い。学問の進歩には批判的精神が不可欠だと思う。

図は1月号のNew England Journal of Medicineに掲載された論文の結果だ。免疫療法はこれまでの抗がん剤に比べると圧倒的に優位だ。日本ももっとこの分野に注力すべきだ。遠い将来の再生医療より、はるかにインパクトが大きい。

ちなみに、彼と私が共同主任研究者で申請した「がん特異的リンパ球」に関するNIHのR01と呼ばれる研究プロジェクトは、トップ1%に相当する研究であるとの評価を受けた。腫瘍免疫ゲノム研究は、もっとも熱い研究分野になりつつある。日本にこの研究分野の波が押し寄せるのは5年後か、10年後か?

f:id:ynakamurachicago:20150221131853j:plain