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腫瘍免疫ゲノム学(2):がん組織内での免疫環境を規定する因子

医療(がん免疫・免疫ゲノム学)

大規模ながんゲノム解析や発現情報解析の結果から、遺伝子異常数が多いほど、CD8細胞の浸潤レベルの高いことを紹介した。われわれは、80症例異常の膀胱がんの遺伝子子異常を解析し、DNAの修復に関係する遺伝子に異常のある膀胱がんは、遺伝子変異数の多いことを見いだした。そして、DNA修復遺伝子に異常があった患者の方が、予後がいいことを昨年報告した。家族性大腸腺腫症はわれわれが見つけたAPC遺伝子の異常で起こるが、それ以外の遺伝性大腸がんは、DNA修復遺伝子異常で起こることがわかっており、しかも、一般的に起こる大腸がんと比べて予後のいいことが約20年に報告されている。これらの事実から、われわれは以下の仮説が成り立つ。

(1)DNA修復遺伝子に異常が起こる(遺伝的・後天的に関わらず)

(2)がん細胞での遺伝子変異数が増加する

(3)HLA分子と結合する腫瘍特異的な抗原(がん細胞を非自己と認識させる目印)が増加する

(4)これらの目印が誘引となって、がん細胞に対する免疫細胞(キラーT細胞やヘルパーT細胞と呼ばれるがんを攻撃するリンパ球)の活性化が起こる

(5)がん組織内でがんを攻撃するリンパ球が多いと、免疫チェックポイント抗体治療に対して、より高い臨床効果を示す

といった流れである。昨年、12月に「New England Journal of Medicine」に紹介された論文は、遺伝子変異数が抗体治療薬の効果に関係することを示している。

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ただし、がん組織での免疫を規定する因子としては

(1)制御性T細胞

(2)Indoleamine-2,3-dioxygenase (IDO)という酵素

が高くなるとがんに対する免疫が抑制される。これに加えて

(3)がん細胞でのHLA発現の低下・喪失などが起こると、がん細胞の目印が失われ、免疫反応が低下してくる。下図において、遺伝子変異が多いにもかかわらず、短期間しか臨床的な効果が認められない患者や全く効果がない患者(赤の四角で囲んだ患者)については、上記の(1)-(3)の検討が不可欠である。

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 前立腺がんや乳がんでは、がん細胞がHLAを作らなくなるために、がん組織内での免疫活性が抑えられていると考えられている。いずれにせよ、がん組織で起こっている、がん細胞とそれをとりまく免疫細胞のバランス、免疫環境は非常に複雑で、種々の要因を複合的に考えなければならない。

前回のブログで紹介した「Cell」の論文でも、HLA分子の異常やHLAと結合する補助分子の異常ががん組織内の免疫反応性に関わっていると記載されている。がんのゲノム研究は、がん細胞だけではなく、がん組織内でのがん細胞でない細胞の働き、特に免疫細胞をゲノムレベルで徹底的に調べていくことが求められている。

日本人の60%がHLA-A24タイプを持っていることから、日本人患者での系統的・網羅的な解析をすると多くの共通点、特に細胞障害性Tリンパ球の働き、を見出すことができる可能性を秘めている。