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腫瘍免疫ゲノム学(Oncoimmunogenomics)(1)「がん細胞での遺伝子異常が多いと免疫を強く活性化する」

医療(がん免疫・免疫ゲノム学)

Cellという雑誌の2015年1月号に「がん細胞における遺伝子異常とがん組織での免疫反応」に関する興味深い論文が報告された。英文のタイトルは「Molecular and Genetic Properties of Tumors Associated with Local Immune Cytotoxic Activity」である。この表題を訳すると(がん組織における免疫反応に対する分子学的・遺伝学的特徴)となる。

 

おそらく、タイトルを読んでも、何が新しくて重要なのかわからないと思うが、がん患者さんにとって、そして今後のがん免疫療法を考える上で、非常に大切なことだ。がん免疫療法は、外科療法、放射線療法、化学療法に続く、第4の治療法として地位を確立したことは、これまでにも述べてきた。しかし、免疫療法(抗HER抗体療法や、抗EFGR抗体などのがん細胞に直接作用する分子標的治療薬は除く)と言っても、

  1. ワクチン療法
  2. 細胞療法
  3. 抗体療法(免疫抑制分子の働きを抑える)
  4. これらの組み合わせ

など一言では語りにくい。現時点で米国FDAの承認が得られているのは、(1)と(3)である。

 

(3)の成功によって、がん細胞をリンパ球などの免疫細胞から守る仕組みを抗体医薬(免疫チェックポイント分子に対する抗体)で破壊し、防御側を弱体化すると、リンパ球などの攻撃側が優位となり、がんを叩くことができることは、もはや世界の常識となっている。がん組織にCD8タイプのリンパ球(がん細胞に特別な標識を見つけて、それを手掛かりにがん細胞を殺すことのできるリンパ球)が多く入り込んでいると、がん患者さんの予後がいい(長生きする)ことも、常識と言ってもいいくらいである。

 

しかし、がん組織にリンパ球が入り込む程度が、個々の患者さんでなぜ異なるのかは今一つ不明確で、この仕組みを明らかにすることが、今後の免疫療法を考える上で非常に重要となってきた。免疫チェックポイント分子に対する抗体治療は、リンパ球が多い患者さんの方が効きやすいことも報告されている。

 

今回の論文は、がんの遺伝子解析を行った数千例からなるデータベースの情報を利用したものである。がんの遺伝子解析の結果からパーホリンとグランザイムという二つの分子(がん細胞を殺す重要な役割を果たす分子)を指標にして、がんを殺すリンパ球の多寡を推測したものである。 

下の図にあるように、遺伝子の異常が多いほど、がん組織にはがん細胞を殺す(細胞障害性)リンパ球がたくさん入り込んでいる。細胞の表面には、細胞の中で壊されたタンパク質の一部(ペプチド)がHLA(白血球の型抗原)と結合して、目印として示されている。本来は、自分と自分でないもの(自己と非自己)を区別するための仕掛けで、ウイルスなどに感染した細胞などを排除するための装置である。

がんは遺伝子の異常によって起こるが、遺伝子の異常によって、本来あるべきアミノ酸が他のアミノ酸に変わってしまうことがある。すると、変化したペプチドがHLAに結合して細胞に表面に現れ、がん細胞が外敵だとみなされて、免疫細胞が活性化され、これをやっつけようとするのである。がん細胞はしたたかに、この攻撃をすり抜けようとする。この攻撃側と防御側の鬩ぎあいを明らかにしたいと思っている。

 日本は取り残されてしまったが、がん細胞・がん組織で起こっている異常・変化を詳細に調べていく研究が、がんの根本的な理解を深め、新たながんの治療法の開発へつながっている。がんという難敵に打ち克つには、この敵をよく知ることが不可欠である。腫瘍免疫ゲノム学については、引き続いて紹介していきたい。

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