こんなことで救急車を呼ぶか!?

千葉県警が昨年1年間の110番受理状況をまとめたとの記事を読んだ。約47万件のうち、緊急性のないものが、2割を超えていたそうだ。例として、「妻に加齢臭を指摘された」「酔っぱらって帰れないのでパトカーで送って」などが、不届きな利用が11万件あったそうだ。

 

私も、病院で当直していた時に、「こんなことで救急車を使うな」と思った記憶がある。国立病院や公立病院の研修医や非常勤医師の給料ではとても生活できず、平日週1回と週末月に1回の当直をしていた。当直病院で夜眠ることができなければ、36時間程度勤務が続くような過酷な条件であった。今なら、一晩眠らないと、血圧や血糖が高くなりそうだし、倒れてしまうかもしれない。

 

当時は、まだ若く、交通事故や緊急手術が必要で、夜一睡もできなくとも、患者さんの役に立ったと思える時は、36時間勤務は平気であった。しかし、「こんなことで救急車を呼ぶな」と腹立たしくなると、その後、なかなか眠りにつけず、翌日の勤務が辛かった。上述の意味のない110番では救急車は出動しなかったとは思うが、一旦現場に到着して、患者さんから(患者と呼ぶにふさわしくないような訴えでも)何らかの不都合を訴えられると、救急隊員が自らの判断で、救急車出動要請に対して断ることは難しいようだ。

 

ある夜に、歯が痛くて我慢していたが、我慢できなくなって救急車を呼んだという患者が運ばれてきた。症状が数日前からあったそうだが、忙しくて歯医者に行くことができず、痛み止めで対応してきたが、限度を超えたとのことであった。午前2時過ぎで、やっと当直室で寝付いたところであったのでムッとしたが、私も歯のケアは不十分なので、歯の痛みの辛さはよくわかる。

 

手術の直前に歯がズキンズキンとうずくように痛んでどうにも我慢できず、同僚に鎮痛剤を注射してもらって手術に臨み、終わった直後に、ふたたび痛みがぶり返し、歯科医に駆け込んだことがある。歯科医に「何とかして」と懇願したところ、「抜いた方が早いですよ」と言われ、抜いてもらった。それでよかったのかどうか、今でも疑問だが?

 

そして、歯痛の患者さん(自分の経験からして、治療を求めた気持ちが痛いほどよくわかる)には、睡眠を妨害された気持ちをぐっと抑えて、「この程度のことで救急車を呼ぶ間に、本当に緊急性のある患者さんが間に合わなければどうするのですか。」、と正論で軽くジャブを出して終わった。もちろん、ちゃんと痛み止めの処置はした。

 

しかし、次に紹介する救急搬送されてきた人は、そのまま家にタクシーで送り返した。次々と救急搬送があり、午前3時ころに眠りについたところ、4時過ぎに受付事務から救急搬送されると連絡があった。眠い目をこすりながら診察室に入る。すぐに、若い男性が普通に歩いて入ってくる。「どうしたのですか?」と優しく尋ねる私に、その男性は「眠れないのです」と答える。心の中で「えっ、何???」と思いつつ、「いつから眠れないのですか?」と尋ね返す。すると、「今夜だけです」と平然と答える。「他に何か困っていることは?」との質問には、「特にありません」との返事。

 

「一晩眠れないだけで救急車を呼んだのか!」と思わず(心の中では、こんな理由で私の睡眠を奪ったのかと怒りがこみあげつつ)、少々声を荒げる私に、「そうです」と少しは反省した様子で答える若い男性。「家に帰って、目を閉じて静かにしていれば眠れますよ。もし、一晩くらい眠れなくても、大丈夫ですから。明日(というより、今日)体の不調を覚えれば、また、受診してください。帰りはタクシーで」と言ってお引き取り願った。

 

患者さんには緊急を要する状況かどうか判断するのは難しいだろうが、救急車をタクシーの代わりに利用するのをやめてほしいものだ。非常識な救急搬送要請を防ぐには、救急車を有料制にして、医師が「救急搬送が適切であった」と判断した場合にだけ、無償にするような制度を考えてもいいように思う。

 

こんなことを書くと、識者と称する人の「もし、搬送費用を考慮して、本当にすぐに治療が必要な患者さんが、救急要請をせずに手遅れになればどうするのだ。」との罵声が飛んできそうだ。意味のない無駄な救急搬送中に、本当に必要な患者さんに手が回らず、手遅れになった場合に誰が責任を取るのか、も考えないで。

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