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タクシー強盗:頬にあった射入口!!

これは、数十年前、救急医療医であった時のことである。私はこの年に1年間で3人、ピストルで撃たれた患者の治療に当たった経験がある。当然ながら、シカゴの話ではなく、大阪に住んでいた時の話である。2件は暴力団抗争がらみで、残りの1件はタクシー強盗であった。

 

救急隊から、顔を拳銃で撃たれた患者を搬送するとの連絡があった。顔面?ピストル?と心の中で不安を抱きながら、冷静沈着な面持ちを保って、救急車の到着を待った。もし、当時にCSIのような、おぞましい場面を流す番組が放映されていれば、逃げ出したかもしれない。医学部を卒業して1年経ったかどうかのレベルで、銃創など出くわしたことがないし、顔がぐちゃぐちゃだとどうしていいかわからない。

 

顔を銃で撃たれたというので、非常に重篤な状態と推測していたが、患者さんの意識はしっかりとしていて、出血もさほど多くない。しかし、確かに、頬のど真ん中に射入口がある。出血しているのは1か所で、弾丸が出た形跡(射出口)はない。頭部のどこかに残っているはずだが、患者さんに違和感がないかを尋ねても、「頭が少し重い」と言うだけで埒が明かない。

 

すぐに、放射線科にレントゲン撮影を依頼した。写真を見て仰天。弾丸は、副鼻腔を突き抜け、頸部の脊椎骨(何番目かは忘れた)の内側に突き刺さったまま残っている。至近距離から撃たれたのに、貫通することなく、この程度であったのは、改造銃であったためだ(と後日、聞いた)。それにしても、大事な神経を傷つけることなく、出血もほとんどないのは奇跡としか言いようがない。

 

もちろん、私にはそんな複雑な場所にある弾丸を取り出す技量はない。そこで、脳神経外科、整形外科、頭頸部科などに連絡をするが、場所が場所だけに、だれも弾丸を摘出するとは言いださない。今なら内視鏡下でアプローチできるかもしれない。しかし、当時の技術では、弾丸にたどり着くためには、確実にどこかの重要な神経を傷つけそうだった。ましてや、患者さんは、なんの症状も訴えていないのだから、後遺症の残ることが確実な状況で手術などしたくはない。

 

翌朝、相談の上、最終的に、感染しないように注意して経過観察することとなり、私が主治医のまま、2週間後に無事退院の運びとなった。刑事事件なので、私の書いた診断書が、検察庁に提出された。「銃創・全治3週間」とありのままに書いたが、すぐに担当検事から電話がかかってきた。「先生、このままでは、軽い暴力事件と同じような扱いにされてしまいます。なんとかしてもらえませんか?」何とかと言われても、病名と治療期間は変えようがない。

 

しかし、検事の困っている様子もよくわかる。こぶしで頬を殴られた打撲傷でも、この程度の期間かかるだろうし、ろっ骨を1本折れば、1か月以上はかかる。そこで、「上下左右、いずれに数センチずれていれば、重篤な後遺症、もしくは、致命傷となっていたと考えられる」と付け加えることで納得をしてもらった。顔を狙ったのだから、殺人の意図があったことは否定しようがないし、数センチ上だと確実に脳に達していたのだから。この患者さんが、その後どうなったか知らないが、元気で過ごしていることを願っている。

 

読者の方は、シカゴは怖い場所だという印象を持っているかもしれないが、私はこんな経験をしているだけに、シカゴにはそんなに違和感がありません。でも、危ないと評判の地域には絶対に行きません。

 

それにしても、銃創患者3人の治療に携わった経験のある遺伝学者は世界中でも私だけでしょう。自慢になるかどうかわかりませんが。

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