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「23andMe」;病気関連遺伝子診断の頓挫

IT企業大手のグーグルと関連する「23andMe」社が健康や病気に関連する遺伝子診断を取りやめたままである。ウエブページの冒頭には「23andMe provides ancestry-related genetic reports and uninterpreted raw genetic data. We no longer offer our health-related genetic reports. If you are a current customer please go to the health page for more information.」(23andMeは祖先に関わる情報の報告と、何も注釈をつけていない遺伝学的解析結果を提供する。われわれは、もはや、健康(病気リスク)関連の遺伝学的報告はいたしません。もし、あなたがこれまでの利用者であれば、健康に関連するページで詳細な情報を得てください)とある。

2013年11月22日に米国医薬食品局が23andMe社に宛てた公開レターhttp://www.fda.gov/ICECI/EnforcementActions/WarningLetters/2013/ucm376296.htmを公表してすでに1年以上が経過している。当初は早期決着と楽観視されていたが、問題が解決されないままに今日に至っている。

医薬食品局が指摘した問題の例としては、

  1. 遺伝性乳がん・卵巣がん遺伝子BRCA1やBRCA2の遺伝子診断結果が偽陽性(異常がないのに間違って遺伝子異常があり、乳がんのリスクが高いと診断)であった場合、診断された者が予防的乳房切除を受けることによって健康被害を起こす可能性がある。偽陰性である場合、早期発見の機会を逃す可能性がある。
  2. ワーファリンの量を予測するための診断結果が間違っていると、薬が効かずに脳梗塞を起こしたり、効きすぎて出血などの危険がある。このような不利益を、診断を受けた個人の責任にするのは不適切である。(ワーファリンは、血栓ができやすい患者に対して、血をサラサラにする効果のある薬であるが、遺伝子多型によって個々の患者で必要な量が10倍以上違ってくる。最近は、遺伝子情報によって必要な量がある程度予測できるようになっているが、食べ物などの影響も受けるため、100%完ぺきではない。たとえば、納豆や緑色野菜の影響などが大きい。)

などである。両者に共通しているのは、検査技術の精度とその解釈の問題、特に医療関係者を介さずに遺伝的疾患の有無や薬剤副作用リスク情報などを提供している点などである。BRCA遺伝子やワーファリンの用量に関する遺伝子検査はすでに医療機関などで広く利用されているので、これらの遺伝子を検査すること自体を問題としていないのは明らかである。医薬食品局が、遺伝子検査結果の精度がどの程度高いのか、そして誰がどのように責任を持って解釈しているのかを問題視していることが読み取れる。

また、(1)では陽性の場合の遺伝カウンセリング対応が問題であるし、(2)では、検査結果が正しいとしても、誰がそれを解釈し、ワーファリンの用量決定やその後の薬剤の効果の判定をしているのかが問題となる。占いの範疇を超えた「医療」に関わる遺伝子診断に対して医薬食品局が「待った」をかけた膠着状態が続いている。

その一方、国立衛生研究所(NIH)は、ゲノム医療を推進するための会議を重ねており、決して遺伝子医療・ゲノム医療に対して、国がブレーキをかけているわけではない。現に、ゲノム医療会議には医薬食品局の職員も参加している。ゲノム医療を推進しつつ、診断を受ける者に不利益が蒙らないような体制を慎重に模索している状況である。

日本では経済産業省は産業的な観点から推進を図り、厚生労働省が規制という観点からブレーキをかける。高齢化社会を乗り切るためには、そして、限られて医療資源で医療の質を保つためには、ゲノム医療は不可欠であるが、このような発想がない。国家戦略がないままに、「霞が関の谷間」がゲノム医療の推進を妨げている。

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