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治療用機器後進国・日本

医療(一般)

曇天が続くためか、気温は低くはならないが、太陽を見ないままに1週間ほど過ごすと、なんとなく気が滅入ってくる。空を見上げながら、厚い雲に覆われた姿が日本の医療産業の姿と重なってくる。今週の内科の講演会は、左心補助人工心臓がテーマだった。これによって心不全患者の2年生存率8%が75%程度まで改善してきているというデータは衝撃的であった。もちろん専門家ではないので、科学的なエビデンスがどの程度高いものなのか100%の自信はないが、示されるデータで判断する限り、しっかりしたものだと思った。

 

左心室と大動脈をつなぎ、ポンプによって血液を体内に循環させるという極めてシンプルな装置に見えた。ただし、本来は血流が流れる部分(左心室の導出部から、ポンプの管がつながっている大動脈)で血液が澱んで血栓ができたり、全身の凝固に必要な成分が減るなどの問題が生ずるようだが、2年生存率の改善で見る限り素晴らしいと言わざるを得ない。

 

と話を聞きつつ、診断用機器では世界と競争している日本が、治療用機器ではまったく歯が立たない現実を思い起こした。たとえば、不整脈の治療に利用する心臓のペースメーカーには日本製が全くない。手術用のロボット機器もそうである。ペースメーカーなど、今の状況は知らないが、国内に競争する企業がないために、外国の小売価格よりもかなり高い値段で仕入れていたという呆れた話があった。心臓や血管の検査に利用するカテーテルもそうであった。ペースメーカーにしても、この左心補助人工心臓にしても、日本の電機産業の技術をもってすれば、そんなに難しいとは思えない。

 

また、シカゴに来てから、採血を何回かしてもらったが、日本の注射用の針よりかなり痛かった。採血者の腕が異なるので、断定的なことは言えないが、私の経験する限り、日本の注射針の方が優れているように思う。それなのに、何故、治療用機器は遅れているのか。医療イノベーション推進室に在籍していた時に、この課題について議論したことがあるが、技術力の問題でなく、機器類を評価する仕組みの問題が大きいために、日本企業の参入にブレーキがかかっている。

 

一つは審査体制の問題であるが、これは少し改善されたように思う。医薬品のように、全く新たなものができるのではなく、医療機器類は日進月歩で改良が行われているが、小さな改良を行っても、承認までの手続きの手間と時間が、新しいものと同じくらいかかるといった課題があった。改良版が出ても、それが承認を受けなければ、改良版を利用すると不正請求と非難される可能性が大というおかしな話もあったと記憶している。最新型の医療ロボットでも同じように、未承認であれば、性能がいいことが海外で証明されていても、それを利用すると問題視される場合がある。変な世界だ。

 

もうひとつは、機器類の不備・エラーで、生命に関わる事故が起こった場合のメディアなどの反応だ。「・・・・社製のペースメーカーの事故」などと大見出しで書かれると、他の製品の売行きに影響が出る。電機メーカーが治療用機器に手を出さないのは、何かの事故でメディアに袋叩きにされ、テレビや冷蔵庫・洗濯機などの製品が売れなくなるのを恐れるからだと聞かされた。

 

どんな電化製品でも、一定の割合で不良品は必ず出る。これをゼロにする努力をしていても、完全にゼロにすることなどきわめて難しい。特に、医療の場合、何かが起こったとしても、機器が原因かどうかの判定は難しい。血栓ができた場合など、患者さんの条件も異なるし、医者の技量も異なるなどいろいろな要因が重なるため、原因究明は簡単ではない。特に病院内で派閥対立などあれば、医療関係者の悪意が渦巻き、メディアを巻き込んで、真実が捻じ曲げられるので、もっと複雑怪奇だ。

 

医薬品でも、医療機器でも同じだが、客観的で科学的な評価をする体制を構築しない限り、日本の医療産業発展の芽は摘み取られる。当然ながら、医療情報を伝える者の鍛錬と澄んだ目も不可欠だ。

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