私の患者に手を出すな!

私は、患者さんの試料を利用した研究を続けてきた。多くのがん患者さんに協力していただき、がんで起こっている遺伝子異常を調べ、それを診断・治療に応用できるように努めてきた。がん以外の病気についても遺伝学的研究やゲノム研究をしたいという若手研究者を支援するために、多くの医師や患者さんの協力をえて、これまでやってきた。

 

バイオバンクジャパン計画で、約20万人の患者さん協力のもとに、病気に罹りやすい遺伝子を調べる研究を行い、理化学研究所ゲノム医科学研究センターは世界の先頭を走ってきた。しかし、このセンターも改組となって名前が消え去った。大きな成果を挙げて、世界に名を知られた研究センターを5年ごとの中期計画と称して、改組してなくしてしまう神経が理解できない。これでは国際的認知度があがるはずがない。最近では、ゲノム医科学分野は、中国の台頭もあって、日本の影が完全に薄くなってしまった。

 

より確実な証拠を得るためには、できる限り多くの患者さんの協力を得る必要がある。特に、成人になって発症する病気を調べるには、この点がきわめて重要だ。同じ病気のように見えても、マウスと人では、病気を起こす仕組みがかなり異なる。マウスは純系化といって遺伝的に差がないようにされているため、人に存在する多様性は、マウスとは比較にならないほど桁外れに大きい。体の大きさも数千倍違うし、寿命も全く異なる。

 

また、マウスは非常に清潔な環境で飼育されているため、いろいろな病原体に晒されている人間とは、生活環境が天と地ほど異なる。免疫が関係する病気の場合、人では個人間の多様性が、マウスのそれとは比較できないほど大きい。したがって、非常に大きな数の患者さんのデータをとらなければ、病気に関係する遺伝的な差を見つけることが簡単にはできない。がんもそうであるが、同じ診断名でも、個々の患者さんごとに、病気を起こす背景となる仕組みは非常に多様である。

 

したがって、患者さんの数の少ない難病を研究するためには、多くの医師の協力が必要となってくる。ところが、依然として、一部の医師には「私の患者は、私の研究のために存在している」という意識が強い。かつて、厚生省(厚生労働省となる前)の課長が、「今後は、難病の原因解明には、遺伝子・ゲノム研究が重要となると考えられるので、DNAを1か所で集めて、研究者が病因解明に向けて利用できるようにしておく必要がある。」と研究班に伝えたところ、一部から「私の患者に手を出すな!」と猛反発を受けた。その結果、この案はうまくいかず、立ち消えとなった。

 

私も、ある病気の研究をするために、ある患者団体にお願いに伺った後、「俺の患者団体に手を突っ込むな」という、暴力団まがいの電話を受けたことがある。がん患者さんや家族から、「セカンドオピニオンを聞いてみたい」と主治医に申し出たところ、「それなら、私は責任を持ちません。もはや、私の患者ではない。」と突き放されたという話を幾度となく聞かされた。

 

患者さんを思う気持ちからの「私の患者」という意識ならいいが、患者さんは自分の所有物という間違った医師の態度は改めてほしいものだ。

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