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免疫薬理ゲノム学(2) ; がんワクチン療法への期待と科学的解析

医療(がん免疫・免疫ゲノム学)

私が免疫系の多様性を、ゲノム解析の観点から調べる必要性を感じた理由のひとつは、がんペプチドワクチン療法をさらに科学的に解析したかったことにある。今では、がん免疫療法はがんの第4の治療法として医学的に確立されているが、ワクチン療法を始めたころ、いや、ここ数年前まで懐疑的な目を向ける人の方が多かった。がんを免疫の攻撃から守っている分子を抑える方法(抗体療法)は大成功し、患者さん自身の免疫機能の重要性を疑う研究者などいない。しかし、この抗体療法がどのような仕組みでがんを小さくしているのかは、依然として不明な点が多い。

 

しかし、がんを攻撃する細胞(主にリンパ球)が重要な働きをしていることは確実だ。だが、がんを攻撃するリンパ球を増やす方法は、医療として確立せれるとは言えない。がんペプチドワクチン療法は、1990年ころから、がん細胞を攻撃するリンパ球を増やし、がんを治療する方法として期待を持たれているし、われわれも10年近く取り組んできた。頑張ってはきたが、多くの医師を納得させるようなデータが出ていない。また、オンコセラピー・サイエンス社は2度の治験を試みたが、いずれも失敗した。

 

しかし、本日、熊本大学がClinical Cancer Research誌に公表した結果(吉武義泰先生、篠原正徳名誉教授、西村泰治教授)や、これまでに河野浩二准教授(発表当時は山梨大学)や近畿大学・奥野清隆教授が発表した結果から考えると、がんワクチン療法の進むべき方向性が見えてくるような気がする。キーワードは、「がん特異的抗原ワクチン」と「多種類のワクチンの混合」である。複数の「がん特異的」ペプチドワクチンを利用した場合、複数のワクチンに反応した患者さんの生存は、無反応や一つのワクチンにだけ反応した患者さんよりも長いことが、これらの研究成果に共通している。

 

熊本大学の頭頸部癌のワクチン治療患者のデータでは、3種類のいずれにも反応がなかった患者・一つのワクチンにだけ反応しただけの患者、計9名は、9か月以内に全員亡くなられたが、3種類すべてに反応するリンパ球が増えていた6名の患者では、2名は治療開始後11.7か月、11.3か月後に亡くなられたが、残りの4名は今でも生存されておられ、その期間は、54.2か月、37.0か月(がんが消えた)、24.8か月、14.3か月である。治療開始時の患者さんの状態を考えるとがんを叩く何らかの反応が起こっているに違いない。

 

これまでの報告例などを総合すると、可能な限り多くの腫瘍特異的ワクチンを混合すれば多くの医師を納得させることのできる結果につながるのではと考えている。ただし、ペプチドは水溶性が低いことも多く、注射できる分量にも限界があるので、利用できるワクチン数には限りがある。私は10-20種類を混合して利用すると、患者さんの体内で複数のワクチンに反応するリンパ球が増え、今よりも高い治療効果が得られるのではないかと期待している。期待するだけでは何も始まらないと批判されそうだが。

 

ただし、急いで解決すべき課題として、事前診断法(ワクチン療法に反応しそうな患者さんの治療前の診断)やワクチンに対する免疫性が治療に応じて高まっているのかをリアルタイムで調べていく診断法の確立がある。どの患者さんが、どの程度反応しているのか、治療の途中で迅速に、かつ、科学的に判定する方法はきわめて重要である。注射部位が赤く腫れあがれば、免疫反応を活発にしている可能性は高いが、複数のワクチンを利用する場合には、どのワクチンに反応しているのか、科学的な判断は難しい。

 

そこで取り入れたのが、次世代型DNAシークエンサーによって、ワクチン治療中患者のTリンパ球の変化を調べていく方法である。免疫薬理ゲノム学(1)で紹介したように、個々のTリンパ球は、特有のT細胞受容体を持っている。現在のシークエンサーでは、血液10ccに含まれるTリンパ球(1千万細胞前後)を一度の実験で解析することができる。その情報を利用すれば、ワクチンに反応するリンパ球を追跡することが可能となる(はずだ)。リンパ球の種類は膨大であるし、体内のリンパ球をすべて調べることなど物理的に不可能だが、ワクチン治療の過程で大きく変化しているリンパ球があるのかどうかは検証可能である。今日は無理でも、明日になると状況は変わる、このような技術の進歩についていくのは大変だが、患者さんのQOLの改善を図るには不可欠だ。

 

(続く。)

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