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免疫薬理ゲノム学(1);一卵性双生児を区別する

私が米国に来てから取り組んでいる研究は、抗がん剤開発のための標的分子の解析と、免疫薬理ゲノム学である。後者は英語で「Immunopharmacogenomics」と命名している。これまでのゲノム研究は、遺伝性疾患やがんで起こっている遺伝子変化の研究が主であった。私が30年近く取り組んでいる遺伝子多型(個々の人間の遺伝暗号の違い)はいろいろな病気へのかかりやすさや薬に対する反応性(効果・副作用)に関係することが明らかにされている。

 

私が免疫系の多様性に興味を持った理由の一つは、これによって、一卵性双生児を区別することができるからである。なぜ、ここにこだわるのか、少し長くなるが説明する。私が1987年に報告した、VNTRマーカーと呼ばれるDNAマーカーは、1980年代後半から1990年代前半にかけて犯罪捜査に用いられてきた。このため、ユタ大学時代に米国FBIから誘いを受けた。

 

また、日本の推理小説や推理ドラマで、ときどき見かけるMCT118と呼ばれている個人識別法(犯人を特定するための、遺伝子増幅を利用した遺伝子診断法)がある。これは、科学警察研究所から、ユタ大学の私の元に派遣されてきた研究員が開発して報告したものである。栃木の幼女誘拐事件で利用され、後に物議を醸したが、使い方が正しければ間違いは起こらないし、DNAが古い、壊れているような悪い条件下では限界はあるので要注意である。

 

一卵性双生児の場合、同一の受精卵が二つに分かれて双生児となるので、二つの卵子と精子がそれぞれ合体した2卵生双生児(兄弟姉妹が同じ時期に宿ったことと同じ)とは遺伝学的に異なる。同じ受精卵から派生したということは同じゲノムを持つ。ミトコンドリアの遺伝子は母性遺伝(卵子にはミトコンドリアはあるが、精子にはないので、受精卵には母親由来のものしかない)であるので、一卵性でも、二卵性でも、これは同じである。

 

話を戻すと、一卵性の双生児は遺伝学的には区別できないとされてきた。しかし、CSI(Crime Science Investigation)(犯罪科学捜査)という番組で、離れて住んでいると環境が異なるため(おそらく一緒に住んでいてもわずかに異なると思われる)、体内の抗体が違ってくるので、血液中の抗体を調べると一卵性双生児でも区別でき、アリバイを崩した場面が出てきた。

 

そう言えば、小保方STAP問題でも、疑問視された決定的な証拠は、T細胞受容体遺伝子の遺伝子再構成と呼ばれる現象が説明できないという不自然な点であった。我々の体は、多様な外敵に備えるために、いろいろな種類の免疫細胞を準備しておく必要がある。受精卵は一つの細胞であるので、当然ながら、母親由来と父親由来の2種類のゲノムしか存在しない。では、どうするのか?あらかじめ部品を用意しておいて、リンパ球のひとつひとつで、その部品をつなぎ合わせて、多様な種類の免疫細胞を取り揃えるのである。

 

わかりやすく言い換えると(正確さには欠けるが)、Vという部品を60種類(V1・V2・・・・・V60)、Jという部品を50種類(J1・J2・・・・・J50)、ゲノム中に準備しておく。個々のリンパ球の中でそれぞれをつなぎ合わせるように設計すると、V1/J1・V1/J2・・・・・・V60/J50まで3000通りの異なる製品を作ることができ、部品をつなぐ際に、つなぎ目を少し変化させるともっと多くの(数百万種類もの)製品を作ることができる。二つの製品を組み合わせたのが最終商品(リンパ球)とすれば、膨大な種類のリンパ球を作ることができる。

 

リンパ球は自分の体を傷つけるものは、選択的に取り除かれ、必要に応じて必要な商品(リンパ球、あるいはそれによって作られる抗体)をたくさん作るようにプログラムされて、外敵に備えるようにしている。したがって、環境が異なれば、どのようなリンパ球や抗体がどれだけ作られるのか、個人個人で違ってくる。そのため、一卵性双生児でも、これらの商品の品ぞろえを詳しく調べると、二人を区別することができるのである。

 

とまず、第1回は免疫に関係する遺伝子が非常に多様性に富んでいる話題を紹介した。

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