白血病患者の不幸な死+(続)エボラ

今日、ある教授との会議があった。彼女が、珍しく時間に遅れて、息を切らせながら会議室に入ってきてこう言った。「遅れてごめん。私の患者が昨夜銃殺されたので時間を取られていた。白血病で骨髄移植をして、その後の拒絶反応も乗り越えたところなのに、28歳で命を落とした。」と悲しげに。「シカゴに長く居るが、患者がこんなことになったのは初めてだ。」こんなことが再三再四あっては、私もうかうかと住んでいられないが、自分が苦労して治療した患者さんが病気と関係のないことで亡くなるのはつらいことだ。まして、強盗に射殺されたとあっては、何と言って慰めていいのか、言葉が見つからない。

 

そして、小豆島の病院に勤務している時に関わったある患者さんのことを思い出した。観光バスが事故を起こして中年の男性が運ばれてきた。腕を複雑骨折していたので、整形外科で診察を受け、翌日整復するとのことで入院となった。少し息苦しいとのことで、当直の私が呼ばれ、胸に聴診器を当てたところ、胸の上部で、腸が蠕動(動いている)のような音が聞こえた。交通事故の際に横隔膜が裂けたのではと思い、すでに友人と夕食に出かけた上司を呼び出し、このことを伝えた。しかし、「私は医者になって10年以上経つが、横隔膜破裂など、見たことも聞いたこともない。」で終わってしまった。

 

こうなると私も意地になって、レントゲン技師を呼び出し(といっても大半は5-10分くらいのところに住んでいた)、患者さんに胃の造影剤を飲ませて撮影した。すると、驚くことに心臓と胃が横に並んで映っているではないか。もちろん、あわてて再度上司に連絡したものの、上司は少しお酒が入っていて、メスなど扱える状況ではなった。しかし、病院には駆けつけてきてくれて、麻酔を担当してくれた(築地の新聞社に、患者の命を軽視と叩かれそうだし、麻酔の専門家にもお叱りを受けるかもしれないが)。横隔膜に10センチ程度の裂け目があり、そこから胃と腸の一部がせり上がっていた。手術はこの裂け目を縫い合わせるだけで簡単に終了した。

 

この患者さんの退院を待たずに、この小豆島の病院をあとにし、市立堺病院に赴任したが、その後患者さんが急死したとの連絡を受けた。原因は不明で、朝、看護婦さんが見回った時に亡くなっていたと聞いた。小豆島にいた時に起こった記憶に残る患者さんだけに残念でならない。

 

そして、この会議が終わった後に、テキサスで2例目のエボラ出血熱米国感染患者が見つかったとのニュースを目にした。1例目の状況から、リベリア人の患者さんが最初に病院を訪れた際に接触した医療関係者は、ほとんど備えをしていなかったことが明かなので驚きはしないが、さあ大変だと思う。なぜなら、この2例目は、昨日微熱が出て隔離されたというが、2日前に飛行機に搭乗していたからだ。この病院関係者も、リベリアから帰国した患者に接触していたが、監視の網から抜け落ちていた。

 

エボラ出血熱など、身近に起こるはずがないという思い込みが、テキサスでの思わぬ感染拡大につながっている。また、エボラに備えたトレーニングを受けていた医療関係者は20%程度しかいないとの報道もある。昨日の世界保健機構(WHO)のプレス発表によると、12月には1週間で1万人程度の新規患者が発生する危険性があるという。今のペースで増え続けると、いつ、アジア、そして日本に拡散してもおかしくない。もはや、西アフリカの問題ではなく、世界的危機と言っていい。

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