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予防注射と危機管理

シカゴ大学病院職員は、インフルエンザの予防注射を受けることが義務となっている。かつて予防注射によってアレルギーを起こしたなどの特別な理由がない限り、受けなければならない。医療関係者や事務職員が感染して、それが患者に及ぶようなことになれば大変だからである。日本では病院職員に強制されることはないし、大半は有料であるが、ここでは予防注射は無償で提供される。

この費用は大学が負担するのか、保険会社が負担するのかよく知らないが、インフルエンザ感染が広がって、患者に感染すると病院の評価を下げることになるし、保険会社にとっては、予防注射の費用の方が、感染が重症化して入院などにいたる場合の費用を考えれば効率的なのかもしれない。

また、予防注射をした証となるステッカーを名札に張ることを求められ、張っていない場合には、病院に入館する際に呼び止められ注意を受けるし、場合によっては入館を拒否される結果ともなる。病院に通院、入院している患者は、抵抗力が弱いのであるから、その人たちのために医療従事者が注意を払うのは当然の事である。

しかし、日本では公のためとはいえ個人に対する強制をするのはけしからんという思想が強くあり、感染症の予防注射も徹底できない。医師・看護師や教師から患者や生徒に結核が広がるケースも、医療機関や教育機関の危機管理の問題である。

また、予防注射で一人でも重篤な副作用(副反応)が出れば、大騒ぎする風潮も一向に変わらない。公衆衛生は、最大限の人の利益(幸福)を図ることが求められる。みんなに利益があって、不利益がゼロであることは、どのような治療法、治療薬であってもありえないことを前提に、最大限の利益と最小限の不利益を追求する必要がある。不利益を受けた人をどのように救済するのかは、行政の問題である。しかし、不幸な事例が出たからといって、ワクチンを中止し、感染症によって、もっと多くの不幸・犠牲を生み出すことがないようにしてほしい。

そして、不利益をいかに減らすのかは科学の問題である(行政の協力も欠かせないが)。ウイルスワクチンに対する副反応が、遺伝的な要因で決められているのかどうか、まだ、定かではないが、私は遺伝的な要因がかなり寄与していると考えている。この解明によって、副反応リスクの高い人の全員は無理かもしれないが、リスクの高い一部の人は、あらかじめ見つけられるようになり、副反応を回避でくるであろう(いくつかの薬剤で、薬疹を引き起こす原因が白血球の型であることが明らかにされており、副作用を回避するための遺伝子診断が始められている)。米国では、年間100人前後がピーナッツを食べることによって、アナフィラキシーショックを起こし死亡する。これも科学の力で数年以内には原因となる遺伝的要因が明らかにされるであろう。ただし、このような問題では、国全体で取り組むことが不可欠である。

この原稿を書いている時、ニューイングランド・ジャーナル。メディシンという雑誌のエボラ出血熱の論文を目にした。患者数が約3週間ごとに2倍になっているという。このペースで拡大していくと、約2.5か月で10倍になる。米国内で発症したエボラ出血熱患者は昨日死亡した。2次感染が起きるかどうか、米国中が注視している。早く収束に向かって欲しいと願うばかりである。

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