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米中の狭間で、存在感なき日本

雑事

昨日から3日間の日程で、日本癌学会総会が始まった。私は昨年、会長を務めたが、早1年が経つことになり、時間の流れの速さを改めて実感する。歳を取ると1年が早く感じられるというが、ここ数年は、1年間が急速に短くなっているように思う。学会の発表内容だが、米国癌学会と比較すると、歴然として新しい治療などに関する演題が少ない。新しい薬が日本から出てこない状況では、今後も単にがん細胞・がん関連遺伝子の生物学発表の場となり、患者さんの期待を担う方向性には進まないのではと憂慮する。

 

特に、がんのゲノム情報を診療に応用する観点では、日本は米国・英国だけでなく、韓国・中国にも大きく水をあけられている。イルミナ社が発売した最速のDNAシークエンサーは世界で13か所の施設が購入したそうだが、日本の施設は含まれていない。しかし、私は、現状では、日本の施設で購入する必要があるかどうか疑問だ。なぜなら、ゲノムを大量に調べて、それを医療に生かしていくという戦略に欠けるからである。

 

英国は10万人のゲノム配列を調べて、診療情報と比較し、病気の予防・診断などに生かすプロジェクトを開始している。10年前に全国を走り回り、20万人規模のバイオバンク・ジャパン設立に貢献してきただけに、今の日本の戦略性の欠如には寂しさを覚える。技術革新に伴って、それを生かし、新しい戦略を練り上げていかなければ、あっという間に取り残される。昨日のイルミナ社の社長の講演の中で、中国との連携を進めているとの話があったが、米国のNIH主導の国家的な取り組みと中国との国家的レベルでの連携を考えると、日本がゲノム医療の分野で世界の一翼を担うことは極めて厳しい。研究のスピードに施策決定の仕組みがついていっていない。

 

私は高齢化社会を生き延びるためには、病気の予防、医薬品の無駄な利用の回避などを通して、医療費の高騰を抑制する必要がある。そのためには、ノム医療は重点的に取り組むべき喫緊の課題だと繰り返し主張してきた。しかし、間違っても、3・11の大震災後のような予算ありきの火事場泥棒的な拙速な施策決定をしないでほしいと思う。戦略・戦術をしっかりと練り上げ、それをトップダウンで実行していかないと砂漠に水を撒くことになる。

 

がん治療薬選択に関する分野では、ゲノムシークスンス結果に基づいて薬剤を選択する方法が急速に広がっている。また、アミノ酸置換を伴う遺伝子異常を手掛かりに、個人個人に応じたペプチドワクチン治療もすでに始まっている。このような新しい手法での臨床試験では、これまで絶対的と言われたランダム化試験などでは評価できない。科学的エビデンスを個別化治療に応用することによって、従来のような、ふたつの集団(新規薬剤治療群とコントロール群)を比較して薬剤の優劣をつける方法が利用できなくなってきたのである。

 

米国では、これらの変化に対応してFDA(医薬食品局)が、研究者集団と情報交換を頻回に行って、新しい時代の薬剤の評価方法がどうあるべきなのか対応を検討している。今日、癌学会で日本健康医療研究開発機構のテーマでパネルディスカッションがあるが、明確なビジョンが語られることを願っている。米中の狭間に完全に埋没するのか、日本の存在感を示すことができるのか、待ったなしである。

(日本に陽が射すか?)

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