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オンコセラピー社に託した夢-(2)

医療(一般)

遺伝性がんの研究を生かして、がんの治療薬開発を目指した研究は1984年に留学してしばらくして始まった。考えていたよりも道は長く、大腸がんに関係する遺伝子であるAPC遺伝子を発見して報告したのは1991年8月となった。その間、ジョンス・ホプキンス大学のボーゲルシュタイン教授との共同研究で、p53遺伝子が人のがん(大腸がん)で異常を起こしていることも世界に先駆けて発見し、報告した。この二つの遺伝子(がん抑制遺伝子)を利用してがんが治療できないかと考えたが、壊れてしまったものを再生するのは簡単ではなかった。

 

いろいろ試行錯誤している間に、がん細胞で働きが過剰となった、がん遺伝子によって作られる分子を標的にして薬を作る方法が成功を収めるようになった。抗体医薬であるハーセプチン(HER2という分子の働きを抑える)や分子標的治療薬のグリベック(BCR―ABLという分子の働きを抑える)などが代表的なものである。最近では、ALKを標的とした肺がん治療薬やBRAFを標的としたメラノーマ治療薬がある。

 

時間は前後するが、1998年に私の人生観・価値観を大きく揺るがせる出来事があった。母が進行性大腸がんと診断されたのである。堺市民病院で一緒だった同級生に手術を依頼し、手術室に見学に入った。非常に大きかったので、腹膜内に播種しているのを恐れていたが、開腹した直後にそれは否定されてホッとした。が、次の瞬間、肝臓の表面に転移が見つかった。手術は無事終わったが、がんはあっという間に広がり、数か月後には厳しい腰痛に見舞われた。

 

頻回に見舞いに訪れたのだが、母の状況が厳しくなるに従い、東京と大阪の距離が段々と遠くなるように感じられたものだ。結局、何もできないまま、1年間の闘病の末に母は天に召された。自宅に自分用の白い装束を用意していたことを思い出すたびに、切なくなる。それにも増して私の心に残っているのが、「おまえが研究していた病気なって、恥をかかせて悪い」と私に詫びた一言である。もちろん、返す言葉など見つからず、ポロリと涙が流れただけであった。

 

母の写真を眺めてこの言葉を思い浮かべ、そして、その母が苦しみ、亡くなるまでの1年の間、何もできなかった自分への悔しさが、抗がん剤を開発したいという強い思いを駆り立てたのである。論文を出すことに、人生の意義をあまり見出せなくなったのだが、皮肉なもので、その翌年にNature、Cell、Nature Geneticsといった雑誌に立て続けに論文を発表できた。その後も、論文発表を続けているものの、心は全く満たされない。頭の中は「社会に還元するための研究」に占拠され、「自分が楽しめばいい」と言っている研究者とは完全に一線を画す自分がいるようになった。

 

そして、研究の軸足を、がん抑制遺伝子から、がん細胞の増殖を支配する遺伝子へと移した。ただし、p53遺伝子やそれに関連する細胞死を引き起こす遺伝子を利用する研究は継続していた。研究としてはうまくいっていたと思うが、遺伝子治療というだけで、各段にハードルが高くなる状況や、遺伝子治療を患者さんに応用するには膨大な経費が掛かるために、大学で受け取る公的な研究費では限界があった。今振り返ると、ウイルスなどでがん細胞を殺す遺伝子を運ぶと、ウイルスに由来するタンパク質が患者さんの免疫を高める働きがあるので、がんを殺すと同時に免疫が高まり、マウスでは認められなかった高い効果が認められたのではないかと残念だ。

 

話を戻すと、がんの治療薬を自らで開発するにはベンチャー企業を立ち上げるしかないと考えた。そして、2001年、母の死から2年を経てオンコセラピー・サイエンス社を立ち上げるに至ったのである。これには、CSKベンチャーキャピタルを率いていた青園雅紘氏との偶然の出会いという幸運があった。彼との出会いがなければ、金策に走り回って、研究そのものが立ち行かなくなっていたかもしれない。設立した時の会社の目標は、(1)低分子化合物治療薬(分子標的治療薬)、(2)抗体医薬、(3)遺伝子治療、(4)核酸医薬の開発であった。がんワクチンは、その当時、かけらさえなかったのである。当然、ベンチャーである以上、希望と不安の中での冒険に満ちた船出であったことは言うまでもない。

 

ちなみに、築地の嘘つき新聞は、東京大学医科学研究所の臨床研究を非難したと称する記事の中で(裁判では中村祐輔を非難する意図はなかったと主張し続けたが、事実を捻じ曲げてストーリーを作るのが社是だから仕方がない)、私を陥れる意図で、「オンコセラピー社はがんワクチンを商業化するために設立されたものだ」と「虚偽」記載をした。二つの吉田事件と同じである。最初から悪意があるから、こんな初歩的な事実確認も調べずに記事にするのだ、この偏向新聞社は!(続く)

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