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がん免疫療法(4):変革期のがんワクチン療法-1

がん細胞を殺す能力を持ったリンパ球の働きを高め、がん患者の治療成績を上げる目的で利用されるのががんワクチンである。「ワクチン」というと細菌やウイルスなどによる感染症を予防したり、重症化を防ぐもの、というイメージがあるが、ここでは、がんを治療する、あるいは、再発を予防する目的で利用するものと定義して話を進める。

子宮頸がんに対するワクチンは、「がんを予防するワクチン」と呼ばれているが、本質的にはパピローマウイルスの感染を予防するものであり、この話題には当てはまらない。しかし、パピローマウイルスによって作られるたんぱく質が発がんに深く関与するので、このウイルス感染症を回避することは、子宮頸がんのリスク軽減に役立つことは科学的に証明されており、ワクチンが子宮頸がん予防に有効であることは間違いない。

さて、本論に戻るが、われわれの体には、細菌やウイルスなどの異物を排除する仕組みが備わっており、それが「疫病から免れる」仕組み=「免疫」という言葉につながっている。がん免疫療法に属するワクチン療法は、がん細胞においてだけ作られるタンパク質の断片のうち、免疫細胞ががん細胞を「異物・敵」とみなして攻撃力を高める目印となっているものを見つけ出し、それを利用して、がん細胞に対する患者さんの免疫力を高めようと考えられた治療法である。

本来、われわれの体内の細胞が作り出している、自分自身のたんぱく質には免疫は働かないようなシステムが備わっている。もし、間違って働けば、それは自己免疫病という形の病気を起こしてしまう。それではどのようなタンパク質が、がん細胞に特別なタンパクと言えるのであろうか?以下、大きく4分類する。

  1. がん細胞が発生した元になる細胞においてだけ作られるタンパク質―たとえば、メラノーマ(悪性黒色腫)は、皮膚の色素細胞から発生するが、この細胞にはもともと色素そのものや色素を作るための酵素などがあり、これらはこの色素を作る細胞とメラノーマに特異的といえる。
  2. 正常では限られた細胞(精巣・胎盤や胎児期の細胞)でしか作られていないが、がん化する過程で作られるようになったタンパク質―がん精巣抗原、あるいは、がん胎児抗原とよばれる。
  3. 正常では非常に少ない量しか作られていないが、がん細胞では非常にたくさん作られているタンパク質―抗体医薬ハーセプチンの標的であるHERタンパクなどはこれに相当する。
  4. がん細胞で起こった遺伝子異常(アミノ酸が変わる遺伝子異常)によって作られた正常細胞には存在しないタンパク質やその一部

下の図にあるように、タンパク質は細胞の中で分解されて小さな断片(ペプチド)になる。9-10個のアミノ酸がつながったものは、HLAと呼ばれる白血球の型を決める分子とくっつく。白血球型によって、ペプチドとの相性が違うので(くっつきやすさが違う)、個人個人によって結合するペプチドが異なり、敵と味方(自分と自分でないもの=自己と非自己)を判別するのに役立っている。リンパ球には、この細胞の目印であるペプチドを読み分け、敵と識別すると攻撃する力を高める機能が備わっている。

それぞれのリンパ球には敵を見分けるセンサーがついているが、センサーの種類は理論的には100兆―10京(1京は1兆の10000倍)種類あると推測されている。自分のタンパク質を感知するセンサーを持つリンパ球は、自分自身にとって危険であるので、ある段階でほとんど自殺するようになっており、自己免疫病を防ぐことができる。臓器移植の後に拒絶反応が起こるのは、移植を受けた患者さんのリンパ球にあるセンサーが、移植された臓器(細胞)を敵と見なして、排除しようとするからである。

がん細胞は本来自分自身の細胞であるが、上に示したようなタンパク質が、時としてがん細胞を非自己(患者さんにとって敵)と見なすきっかけになることがある。しかし、一般的には、がん細胞を殺す能力を持ったリンパ球の数は圧倒的に少ないため、これらのリンパ球を人工的に増やす方法が考案され、それがワクチン療法と呼ばれているのである。タンパク質をまるごとを利用する方法もあるが、次回ではペプチドワクチン療法に話を限定して紹介したい。

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