がん免疫療法(3):高額医薬品と医療費破産

免疫療法と言っても、いろいろな方法があるが、今、圧倒的に注目を集めているのが、免疫チェックポイント機能があるとされているCTLA-4, PD-1, PD-L1分子に対する抗体療法である。がん細胞を免疫細胞による攻撃から守るために重要な役割をしているのが、免疫チェックポイント分子である。これらの働きを抗体で抑えることによって、がん細胞の周辺に存在している、がんを攻撃する側のリンパ球が、防御側よりも相対的に強くなって、がんを殺すと考えられている(他の仕組みの可能性もあるが省略)。

 

これらの抗体療法の臨床試験結果が続々と報告され、高く評価されたことにより、Science誌の2013年「Breakthrough of The Year」には、がん免疫療法が選出され、がん免疫療法ががん治療法のひとつとしての立場を確固たるものにした。抗CTLA-4抗体(Ipilimumab)は米国FDAによって2011年3月に承認を受けており、抗PD-1抗体(Nivolumab)は小野薬品が2014年7月に日本での製造販売承認を受けている。

 

新しい治療法・新しい薬剤が生まれ、治療の選択が増え、これまで治療不能の病気を治癒する可能性が高まることは患者さんにとって望ましいことだ。しかし、喜んでばかりいられない。なぜなら、これらの薬剤がとんでもなく高額だからだ。日本では未承認の抗CTLA-4抗体は、米国では4回の注射で12万ドルの費用がかかる。約1200万円である。日本での抗PD1抗体の薬価がどうなるのか、期待と不安が高まっている。ちなみに、これ以外のがん分子標的治療薬にも、1年間治療を続けると数百万円から1千万円の費用が必要となる。

 

話は変わるが、米国における個人破産の最大原因は何か?日本では、不動産のローンが払えない、クレジットカードを使い過ぎることが、まず、頭に浮かぶ。しかし、話の流れでお気づきとは思うが、米国では第1位となっているのが医療費負担による破産である。米国では医療保険は日本のように皆保険ではなく、民間の保険が主となっているため、保険によってカバーされる範囲は統一されておらず、加入している保険の種類によって大きく異なる。1000万円の治療薬代に加え、診察・検査費用も高いので、治療を続けると破産に追い込まれる結果となることが少なくない。米国では、年間150-200万人が医療費の負担に耐え切れず、破産していると推測されている。

 

日本では、保険収載されている薬剤を利用する限りにおいては、個人負担は3割で済む。さらに、1か月の医療費が高額の場合、高額療養費制度によって救済される。70歳未満の場合、(1)上位所得者(月収53万円以上の方など)では、月の最大負担額は150,000円+(医療費-500,000円)×1%、(2)一般(1でも3でもない人)は80,100円+(医療費-267,000円)×1% 、(3)低所得者(住民税非課税の方)は35,400円 が上限と定められており、窓口負担がこれを超える場合には、差額分が国から支給される。したがって、100万円の医療費で、その3割の30万円を支払っても、(2)に該当する場合、212,570円が国から支給されることになる。誠にありがたい制度である。

 

しかし、高額な医薬品・診療機器が増え続ければ、このような高額療養費制度が維持できるはずがない。言うまでもないが、費用は税金によって賄われているのである。難病に対する医療費負担も税金が原資である。私は、現在の皆保険制度は世界に冠たる制度であるので維持すべきと思うし、高額な医療費を国民全体で負担していくことにも賛成である。このためには、消費税などの税金を増やしていかざるを得ないと考える。「無い袖は振れない」し、医療は将来への投資であるから仕方がない。ただし、無駄な医療費のチェック体制をしっかりと作る必要がある。

 

別の角度から見た問題点として、これらの新規のがんに対する画期的薬剤の大半が海外から輸入されていることがあげられる。国内で開発された薬剤が利用され、企業が利益を上げて税金を払い、お金が国内で循環しているのであれば、税収が増えて医療福祉費に還元されるが、今は、2兆円もの医薬品を輸入している状況となっている。ぜいたく品は節約できても、有効な医薬品を節約することなどできまい。2013年度の年間の医療費は40兆円に迫り、このままでは、皆保険制度も持続不可能になるし、日本の国家経済の破たんにつながりかねない。

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