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がん免疫療法(2):「詐欺よばわり」から「第4の治療法」への道

最新の話を始める前に、記録に残る最初のがん免疫治療を振り返ってみたい。それは、なんと百数十年前に遡る。1885年全身に広がった骨肉腫(骨にできるがん)の腫瘍部に細菌感染が起こった(膿がたまっているような状況)。感染症の治療を続けるも、全身状態が悪く、医師は患者の死を覚悟した。しかし、その後、感染症は急激に回復した。驚いたことに、数週間後には全身からがんが消え去った。この現象を目にして、コーレー (William Coley)医師は細菌感染によって、細菌に対する免疫が高まるだけでなく、同時にがん細胞を敵と認識する免疫機能も活性化され、がんを消滅させたと考察した。これをヒントにして、細菌毒素を利用したがんの治療法を試み始めた。ある程度の効果はあったようだが、高熱などの副作用が大きく、途絶えてしまった。

 

このコーレー療法の発想は、その後のいくつかの非特異的免疫療法に受け継がれていく。非特異的免疫療法というのは、がん細胞に狙いを定めて免疫を活発にするのではなく、免疫機能全体を均等に高める効果を狙った免疫療法のことである。これに対して、がん細胞だけを狙い撃ちするように免疫を活性化する免疫療法を「特異的免疫療法」とよぶ。

 

特異的免疫療法は、1990年に、がん細胞だけに存在し、免疫を活性化する分子が発見されたことに端を発する。これ以降、がん細胞だけを狙い撃ちするように、免疫を活性化する方法(がん細胞で作られているたんぱく質やその一部分だけを注射して、がん細胞を殺すリンパ球を増やす治療法=がんワクチン療法)や、腫瘍組織に浸潤しているリンパ球を体外に取り出して増やし、治療に応用する手法(TIL療法=Tumor Infiltrating Lymphocyteにはがんを殺す力のあるリンパ球が多いと考えられた)も始まった。これらは一部の患者には非常に効いたようだが、免疫療法が市民権を得るには至らなかった。

 

21世紀に入っても、多くのワクチン治療が検証されたが、今日までに米国で承認されているのは前立腺がんのものだけである。ワクチン療法は、ワクチンの投与を繰り返すことによって、がんと闘うリンパ球の数を患者体内で増やす治療法である。しかし、がんが10センチメートルまで大きくなると、その細胞数は1千億個から1兆個になってしまう。血液内を循環しているリンパ球数は10億個、全身に存在するリンパ球は1兆個である。がんを殺す力のあるリンパ球は、その一部しかないので、がんが非常に進行した場合、多勢に無勢である。

 

また、がん組織には高い頻度で、がんを殺すリンパ球が選択的に集まっているようだが、多くの場合、がん細胞を免疫から守るリンパ球も存在する。また、免疫を抑える分子も多く作られていることもわかっている。わかりやすくたとえると、がん細胞の周りには、がんを守るリンパ球とがんを攻撃するリンパ球がにらみ合っている。がんが大きく増殖しているような状況下では、守る側の力が圧倒的に優位になっている。この守る側の細胞にとって重要な働きをしている分子が免疫チェックポイント分子とよばれている分子である。この免疫を抑える役割の分子をうまく抑えることができれば、がん組織という局地戦での攻守バランスを崩し、攻撃側を一気に優位にさせることが理論的に可能となる。

 

最近、この免疫チェックポイント分子の働きを抑える抗体医薬が作られ、大きな注目が集まっている。私の予想に反して、結構効いているのである。がんの種類によって異なるが、10-50%の割合でがんが縮小しており、完全に消えている例も少なくない。防御側を抑えるだけで、ここまで効果があるとは考えていなかった。がんワクチンの例だと攻撃側の力を高めても、がんが大きくならないケースや長期生存する例はあっても、がんが小さくなる例は非常に限定的だったからである。ただし、がんを叩いている仕組みは、今一つよくわかっていない。

 

しかし、これらの成功例によって、今や、がん免疫療法は、がんの3大療法(外科治療、放射線治療、化学療法)に次ぐ、第4の治療法としての確固たる地位を占めるに至ったと断言できる。ただし、これは予想通りだが、過剰かつ不要な免疫反応をチェック(抑えることが)できなくなってしまうために、自己免疫病に類する副作用が出現している。理論的には、がん細胞に対する特異的な攻撃側をさらに高めると、より高い効果が期待できる。

 

がんワクチン療法に関して、日本には久留米大学の伊東恭吾先生のように先駆者として頑張ってこられた先生がいる。われわれも頑張ってきた。今、踏ん張らないと日本が培ってきたものが、消滅してしまうリスクが高まっている。抗体医薬品にかかる高額医療費も大問題だ。下記の写真ではないが、日本はどの道を選択すべきなのか?

(次回に続く)

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