中外製薬の完全子会社化は国内製薬企業再編への序章か?

「とうとうその日が来たか」、という思いで「スイスの大手ロシュが中外製薬を完全子会社化?」(8月15日)という記事を読んだ。(シカゴ時間の8月16日午後23時時点の報道では、中外製薬は否定していることを前提に以下を読んでいただきたい。ただし、中外製薬側が否定をしても、過半数を有しているロシュ側が決定すれば、余程のことがない限り、それを覆すのは難しいのでは?)すでに過半数以上の株を持っていたので、時間の問題とは思っていたが、完全子会社化で「中外製薬」という名称が消えるかもしれないのは寂しい。すでに、欧米大手製薬企業の大半は、日本にある研究所を閉鎖し、中国やシンガポールに拠点を移しているので、研究所が存続するのかどうかといった点にも興味がもたれる。また、このロシュによる中外製薬の完全子会社化は、日本における製薬企業再編の序章となるかもしれない。

 

「Statista」という会社が公表している2012年の世界における製薬企業売上げと研究開発費の情報によると、トップ50社には日本の企業10社が入っているが、日本トップの武田薬品でも世界で第13位に過ぎない。18位に第一三共、19位にアステラスと20位以内では3社となる。日本上位10社には中外製薬が入っているので、完全子会社となると1社減ることになる。この2012年のデータでは、日本のトップ10社合計の売上高は約6.9兆円、研究開発経費は約1.5兆円であった。これに対して世界のトップ2社を合わせた売上高は約9.3兆円、研究開発費は約1.6兆円であった。同等の研究開発経費であるが、売上高は4分の3程度となっている。研究開発費はすぐには売上げに反映されないので単純には語れないが、研究開発費の効率的な運用が必要かもしれない。

 

21世紀に入ったころから、日本は医薬品輸入大国となり、昨年度の医薬品貿易赤字額は約1兆8千億円に達した。科学立国を目指す国として、この数字はあってはならない数字である。たとえ、製薬企業の再編が起こったとしても、オールジャパンで薬を作る体制、薬を評価する体制を作らないと、近い将来、競争力低下や海外企業による買収によって、世界ランキング上位に入る日本企業が激減するかもしれない。「Nature Reviews Drug Discovery」の最新号に掲載された論文によると、1999年から2013年までの間に米国医薬食品局によって承認された113の革新的医薬品(新規の、病気に関連する分子や経路を標的とした薬剤)のうち、薬剤開発の標的を定めるところから出発して成功に至った医薬品(分子標的治療薬)は78品目に上る。特に2009年以降では、分子標的治療薬が圧倒的多数を占める。

 

20世紀から21世紀に移る頃を境に、薬剤開発手法のパラダイムシフトが起こった。天然物や化学合成したものから薬剤として使えそうなものを片っ端から調べていく手法から、まず、病気や症状を起こす原因分子を見つけて、それを起点に薬を作り出す方法へと変わった。日本は、この動きに追い付けなかったというか、この大変換を理解していなかった。そのため、21世紀に入って日本の貿易赤字が急速に拡大し、次第に焦ってはいるが、マラソンでいうと、競争相手が10キロ地点、20キロ地点に到達してから、じたばたしている感じだ。

 

この遅れには、いくつかの要因があるが、基礎研究を元にした薬剤開発の重要性を認識できなかったことが大きい。先行する欧米や急速に追い上げている中国と競争するには、口先だけでの産学連携ではどうにもならない。世界に通用する製薬企業が日本から消滅する前に、日本医製薬企業が、日本の大学や公的研究機関にある研究成果に目を向けて、「日の丸」印の薬剤を開発することを願っている。

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