The American Cures Act (バイオメディカル研究推進法案)

今日、シカゴ大学で、イリノイ州選出の上院議員リチャード・ダービンIII世の講演会があった。ダービン議員は「The American Cures Act(バイオメディカル研究推進法案(注:この日本語訳は私が名づけたもので正式ではない)」を提出している民主党議員(上院民主党のナンバー2)である。この法案は、米国におけるバイオ医療産業の活性化のために、NIH(国立衛生研究所)を含むバイオメディカル関連研究予算を毎年、「GDPの伸び率+5%」(推計10年間で15兆円)を追加することを求めたものである。

彼の講演は、故ジャネット・ローリー教授がイギリス留学からシカゴ大学に戻ってきた際のエピソードから始まり、バイオメディカル研究の健康・医療への寄与を熱く語った。慢性骨髄性白血病は、ローリー教授が発見した白血病細胞での染色体異常を手懸りにし、数十年を経てグリベックという薬剤の開発につながった。それによってこの病気の5年生存率が、30%から90%に飛躍的に改善した。続いて、エボラ出血熱患者に対する新規治療薬の話に移り、薬がどの程度有効かは確認されていないが、十数年にわたって国から研究費が支援されていたことが、この薬剤を生み出す成果につながったことをあげ、研究の継続的な支援の重要性に触れた。

 

このエボラ出血熱の治療薬である抗体医薬品は、タバコの葉を利用して生産されている。抗体遺伝子をタバコに導入し、葉に含まれるようになった抗体を取り出したしたものである。細胞を利用して抗体医薬品を作るよりも、非常に安価で抗体を生産することができるそうである(「非常に」がどの程度安いかまでは知らない)。議員はこのことまでちゃんと理解している。さらに、質問を受け、「タバコの健康被害を抑えるために税金を上げるべきであるが、それが難しい現状」を訴えた。この点いついては日本と変わりがない。さらに、「モルモン教徒になればタバコの被害はなくなるかもしれない」とジョークを飛ばした(笑っていい場面かどうか、周りを見回したが、多くの聴衆が躊躇していたように見えたので、笑わなかった)。モルモン教徒は、教義により、タバコを吸わない。しかし、タバコだけではなく、お酒も、コーヒーも、コーラも飲まないので、そうなれば産業的には困る人がたくさん出てくる。私も、タバコは吸わないが、お酒は飲むし、コーラもコーヒーも好きなので、無理な話だ。

モルモン教徒の名誉のために(タバコ・酒・コーヒーなどを嗜まないことが不名誉とは思わないが、あらぬ誤解を避けるために)言っておくが、ユタ大学留学時の私の研究や国際プロジェクトは、モルモン教徒の協力がなければできなかったといっても過言ではない。モルモン教徒は医学研究には非常に協力的で、これまでの遺伝病などの遺伝学的解析、ゲノム研究へ果たしてきた貢献は計り知れない。初めての埋め込み型人工心臓の手術が行われたのもユタ大学である。自分に対する還元を求めるのではなく、同じ病気を持つ人や次世代のために医学に貢献するという崇高な精神を持っている。もちろん、私の知るモルモン教徒はみんなすごくいい人である。

 

話は戻るが、ゲノム研究の進歩によって、米国ではGDPにして年間1兆円相当の産業を創出しているそうだ。しかし、ダービン議員は、年間20%ずつ研究開発予算を増額している中国に追い越されてしまう可能性を指摘して、将来のために、今すぐこの分野への投資の増大を諮るべきだと強調した。「米国の研究成果で、今、治療できない病気を治す」、この一言に米国の誇りを賭けた強い思いが伝わった。

がんに限らず、アルツハイマー病や感染症など、話題が広範囲に及ぶことや数字がすらすらと出てくることに感心した。原稿に目を落としていたので、スピーチを聞いている限りでは、洗練されているスピーチであると感じた程度であった。しかし、質疑に移って、数字もあげて自分の考えを述べるに至っては、この議員は十分な政策論議を経て、深い見識を持って行動しているいると判断せざるを得ない。米国では普通なのかもしれないが、私の知っている多くの政治家とは異次元のものであった。

「米国の財政赤字の大きな要因は医療費の負担であり、これを軽減するには、今、バイオメディカル分野への投資を増やすべきだ。そうすれば、将来の医療費の負担軽減につながる。足元の赤字に目を奪われて、この分野への投資を怠れば、米国は国際競争力を失い、将来の赤字のさらなる増大につながる。」この米国を日本に置き換えれば、そのまま、日本にも通用する。3年前、同じようなことを口角泡を飛ばして力説していた自分の姿がなつかしくもある。

 

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