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エボラ出血熱:緊急事態宣言

医療(一般)

世界保健機構(WHO)は、ついに、アフリカで感染が拡大し続けているエボラ出血熱に対する緊急事態宣言を出した。今回の流行での死亡者数は961人に達し、1000人を超えるのは時間の問題である。

エボラという名前は発病者の出た地域を流れる川の名前に由来するそうだ。この感染症が怖いのは、感染した場合の致死率が50-90%ときわめて高いことである(今回の流行における致死率は、最近のデータでは約54%と報告されている)。潜伏期間は7日前後で、最初は風邪のような症状で始まり、重篤になると口・鼻・消化管などから出血し、死に至る。空気感染はしないと報告されており、感染者の血液・体液に触れないかぎり、感染しないとされている。

以前より西アフリカで感染が起こっていたが、患者隔離政策によって感染の拡大は限定的で、収束に向かっていた。しかし、今回、ギニア、リベリア、シエラレオネ、ナイジェリアと感染は拡大し、今回の緊急事態宣言に至った。致死率の高さを考えれば、これ以上の拡散が起これば、国際的に非常に大きな影響を与えることは明白である。

WHOは、経済活動に与える影響を考慮して、渡航や貿易の制限措置を取らなかったが、今後の動向によっては、どうなるかわからない。また、米国疾病対策センターは警戒態勢を最高のレベル1に引き上げて、疑わしい患者に対し隔離措置をとるようとの指示を出した。日本では我関せずのような報道がなされているが、これでいいのか非常に心配である。

もし、何も考えず、対応しないままに、日本での感染者が確認されれば、センセーショナルな報道となり、致死率90%(50%ではなく、この大きな数字が一人歩きするリスクがある)に振り回され、まちがいなくパニックになるであろう。国は、現時点での対応策、これ以上国際的に感染が拡大した場合、万が一国内で感染者が確認された場合を想定して、どのような対応を取るのかをあらかじめ国民に十分に説明しておくべきではないのか?鳥インフルエンザの際に、国際社会から失笑を買うような対策ををとったが、いろいろな状況を想定して万全の策を練って欲しいものだ。

この感染の拡大に対する報道とは別に、米国では2名の感染者に対して提供された治療薬が物議をかもしている。この二人には効果があったと報告されているが、当然この結果を受けて、効いたと判断できるほど十分なデータではない。致死率50%であれば、二人ともが偶然助かる確率は25%であるが、致死率90%であれば、二人ともが偶然助かる可能性は1%に過ぎない。今回の流行による致死率は前者に近いとされているので判断は難しい。

しかしながら、この治療薬の投与は二つの理由で非難を受けている。ひとつは、人間での安全性試験が実施されていない薬剤を投与することが非倫理的行為であるとの非難であり、もうひとつは、どうしてこの二人だけが新薬にアクセスできる権利があったのかというものである。10%の生存の可能性があるのに(今回は50%かも知れないが)、安全を確認されていない治療薬を投与するのはけしからんという話には、首をかしげざるを得ない。動物レベルではそれなりの科学的根拠があるのだから、私なら、やはりこの治療薬を受けることを希望する。安全性が証明されるまで、自分が生きていられるかどうかわからない切羽詰った状況では、安全性より、生存確率を高める可能性に賭けたい。

後者の批判は平等という原則からすれば、その通りである。しかし、日本のような皆保険制度ではない米国の医療には、すでに明らかな貧富の差が存在するので、この原則論がどのまで普遍的なのかどうか疑わしい。感染している人が望めば、平等にアクセスできる準備をしてから提供すべきだという建前論は正しいが、誰がその費用を負担するのか、いつどのような条件か整えばいいのかといった現実的な課題を考えれば、なかなか難しい。

でも、こんな議論ができるような新薬が次々と生み出される米国の状況がうらやましく思われてならない。

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