血液・便で「がん」を診断できる?!

今年のシカゴは涼しく、今朝(7月29日)の気温は16度で、最高気温予想が23度となっている。今週は25度の達する日がなさそうで、日本の5月のような気温が続いている。

 

昨日、ジョンス・ホプキンス大学のニック・パパドポラス教授が「血液中に混入したDNAを利用したがん診断」のタイトルで講演をした。血液には壊れたがん細胞から由来した微量のDNAが含まれている。がんは、遺伝子の異常によって起こる病気であり、遺伝子解析技術の進歩に伴って、がんで起こっている遺伝子異常の解明が急速に進んでいる。これらの情報を手掛かりに、血液中に含まれるDNAを調べて、どの程度までがんの診断ができるかを紹介したセミナーであった。

 

10ccの血液から、血漿(赤血球、白血球、血小板などを除いた液体の成分)を分け、その部分からDNAを取り出すことができる。血漿DNAは多くとも10ナノグラム(1ナノグラムは1グラムの10億分の1)程度である。一つの細胞に含まれるDNAの量は約0.0066ナノグラムであるので、10ナノグラムでは細胞約1500個分に相当する。

 

正常な細胞も常に置き換わって死んでいっているので、取り出されたDNAのうち、がん細胞に由来するDNAはごく一部に過ぎない。人の体は60兆個の細胞からなり、がんが径10cmの立方体であると細胞数は約1兆個に達するので、血液中にはかなりのがん由来のDNAが混入しているので、診断可能だとは思うが、がんが径1cmの立方体だと細胞数は約10億個に過ぎず、体全体の6万分の1にしかならない。したがって、私は早期がんでの診断は難しいと思っていた。

 

しかし、最近報告された論文によると、第1期の大腸がんの50%が、第2期のがんで80%のものが血漿に含まれるDNAを調べることによって、がんを発見することが可能であるとされている。血液の量を30cc程度に増やし、遺伝子解析技術がさらに発展すると、治癒可能なレベルのがんの大半をこのような方法でスクリーニングできることになる。

 

便に含まれるDNAを利用した大腸がんの診断は血漿を利用するよりも発見率が高いことも、パパドポラス教授によって示された。尿に含まれる細胞を利用した膀胱がんや腎臓の出口に近いがんのスクリーニングも当然ながら可能である。もちろん、手術によって取り除いたがんの再発の有無を追跡することにも応用可能で、腫瘍マーカーや画像診断より精度が高く見つけることができるようである。

 

そうなれば、日本が注力している、がんのCTやMRIによる画像診断や内視鏡によるスクリーニングなど吹き飛んでしまいかねない。今日は世界最先端であった技術が、明日には古臭い技術となってしまう事例はいくらでもある。コンピューターの世界では、年々その性能が加速度的に進歩している。遺伝子解析技術でも、2007年前後に起きた次世代型DNAシークエンス解析技術の開発は、革命的な変革をもたらしたと言って過言ではない。解析スピードが一気に1000倍近くになったのである。3年かかっていたことが1日でできるようになり、1か月要したことが45分で終わるようになった。これに呼応する形で、がんを遺伝子異常の種類で分類して、それによって治療法を選択する制度設計も大規模に始まっている。このような動きに日本はまったく対応できていない。

 

先を見越して常に世界の状況を把握しつつ、最先端技術を開発しない限り、世界に伍した競争力など維持できるはずがない。医療は、「ゲノム」「IT」「ロボット」技術の進歩によって急速に変わりつつある。「井の中の蛙」が見ることのできる世界では、国際的な情報からはかけ離れた情報しか入手できない。「オールジャパン体制」での取り組みの重要性が叫ばれながらも、各省庁の利権や大学の派閥が依然と横行している。黒船が目に前に迫っているにもかかわらず、「明治維新」は起こらないのか!!

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