「法律上の親子関係」と「生物学的な親子関係」

日本の最高裁判所が「法律上の親子関係」が「生物学的な親子関係」よりも優位にあるとの判断をした。しかし、実際に問題となった二つのケースで考えると、これでいいのかと考え込んでしまった。

 

ひとつは、離婚した妻が、子供の生物学的な父親である男性と再婚した。これに対して法律上の父親である男性(前夫)が、父親の権利を請求したケースである。別れた妻に対する、前夫の悔しい、腹立たしい気持ちを忖度できないこともないが、子供の将来を考えると、この判決には疑問を抱かざるを得ない。現時点では、法律的な親子関係が、生物学的な親子関係との矛盾が解消されているのに、それを否定することが、子供の心を傷つけないか心配である。

 

別のケースは、別れた男性が、生物的に関係のない子供との親子関係の無効を訴えたものである。これも婚姻期間中にできた子供は夫婦間の子供とする民法の定めに基づいて、法律関係が優先され、男性の求めは、棄却された。そうであれば、養育費を求められれば、払い続けなければならないのか?男性として、これを納得することは難しい。

 

親子関係をDNA(遺伝子)レベルで簡単に調べることができるようになったので、複雑なことが起きたかのように言われているが、法律が新しい技術の進歩に著しく遅れている。法医学分野にDNA解析が導入されたのは、今から約30年前(1985年)、英国のアレック・ジェフリーズ博士が「Hypervariable 'minisatellite' regions in human DNA」(人DNAに存在する非常に個人差の大きいいミニサテライト領域)と称する論文をNature誌に発表したことにさかのぼる。

 

英国警察(スコットランド・ヤード)は、この成果を直ちに犯罪捜査(個人識別)に取り入れた。個人間で異なっているDNA配列の差を、犯人の特定に利用する試みが始まり、DNA指紋(DNAフィンガープリント)と呼ばれるようになった。私は当時ユタ大学に留学中であったが、このジェフリーズ博士の論文をヒントに、VNTRマーカーと呼ばれる個人間の違いを調べる目印を見つけ出し(1987年に発表)、遺伝病やがん抑制遺伝子の研究に貢献した。VNTRマーカーも個人識別や親子鑑定に利用可能であることから、論文発表後には、米国FBIに就職しないかと誘われたことがある。日本の科学警察研究所は、技術取得のため、1988年に研究員を派遣してきた。彼の開発したMCT118法と呼ばれる技術は、1991年の足利幼女誘拐事件に利用されたし、テレビやミステリー小説にも登場する。

 

DNAによる親子鑑定技術は、時代と共に少しずつ変わってきたものの、科学としては20年以上前に確立された手法である。民法の規定に従って判断すれば、生物学的な親子関係がなくとも、婚姻関係にある間に生まれた子供には法的には親子関係が成立するとの裁判所の判断はやむを得ないのかもしれない。しかし、詳細なDNA鑑定でなくとも、血液型から親子関係の否定をする事例はあったはずだ。科学に法律が追い付いていない問題もさることながら、子供の将来にとって、最善の方法を考えてほしいものだ。

 

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