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濃霧の中の殺人

今朝も起きると、濃い霧で包まれ、窓からの眺めは乳白色に染まっている。目の前にあるはずの科学博物館の姿(写真)は全く見えない。この1週間ほど霧に包まれる日が多い。湖から100メートル程度しか離れていないためか、東からミシガン湖を通って冷たい風が吹き抜けると簡単に霧が発生する。

その霧の中で、日曜日の夕刻に事件が起こった。外で「パン・パン」という乾いた音が聞こえ、この様な天候の日に花火でもあげている酔狂な人がいるのかと思って、窓から見下ろしてみたが、もちろん霧で何も見えなかった。その後、救急車やパトカーのサイレンの音が聞こえたが、アパートの前は幹線道路からシカゴ大学メディカルセンターへの通り道なので、サイレンの音などなど珍しくもなく、気に留めないでいた。しかし、翌日、この花火と思った音が、拳銃の音であることが明らかになった。

拳銃の発射音など、もちろん、実際に聞いたことがない(若かりし頃、拳銃で撃たれた患者の治療にあたったことはあるが)ので考えもしなかったが、一人が殺され、一人が重傷を負ったとの報道があった。アパートの出口から、わずか50メートルくらいしか離れていない公園内で起こった事件であり、湖岸に行く際には、横を通り過ぎている場所である。シカゴの一部は危険であると知らされ、近づかないようにしていたが、住居の近くでこのような事件が起こったことには少なからず衝撃を受けた。

最近、オバマ大統領が、このような銃にまつわる犯罪が多発しているのは米国だけだと悲嘆しているという報道があったが、人通りの少ない場所には近づかないようにと改めて肝に銘じた。

 

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これだけでは暗い話で終わるので、かつて経験した、拳銃で撃たれた患者さんにまつわる「嘘のような本当の話」を紹介したい。

私が出身地の府立病院の救急医療専門診療科で当直をしていたときの話である。拳銃で腹部を撃たれた患者さんが救急車で運ばれてきた。腹部から出血しており、衣服を脱がせて調べたところ、腹部に射入口があり、弾丸が出た部位は見つからなかった。

弾丸が腹腔内に達したと判断されたので、とりあえず、手術室に連絡して緊急手術の準備をお願いした。弾丸の位置を探すため、腹部のレントゲン写真をとってもらったが弾丸の影はまったくない。どこかで跳ね返ってしまったのかと考え、胸部や左右の足も調べたが影はない。

ミステリーでは済まされず、気持ちは焦るが、ないものはない。そこで、まさかとは思いつつ、穿いていたパンティーストッキングを持ってきてもらって調べたところ、なんと、貫通した形跡―穴が開いていなかったのである。

推測されたのは、弾丸がパンストを引き伸ばしたまま、腹壁を突き破ったが、パンストを突き破ることができず、最後はパンストの弾力(反発力)に負けて体内から押し出されたのである。今なら内視鏡で調べてから経過を見るであろうが、当時は何もせず、とりあえず経過観察となった。

当然、手術は中止となり、同級生の麻酔科医に「弾丸がパンストに跳ね返されたようで内臓への損傷の可能性が低いので、様子を見ることにしました。ナイロンは強いね。」と言ったところ、「夜も遅いんだから、ちゃんと調べてから連絡してよね。」と冷たい一言を残して処置室から去って行きました。ミステリアスで、ほろ苦い夜でした。