早とちりの大失敗;「魚釣島」と「釣魚島」

―昨日、時事通信のニュースを見て、日本名の魚釣島を、中国名(釣魚島)と早とちりし、下記の批判を書いてしまった。正直なところ、日本名で魚釣島があると思わなかった。「魚」と「釣」とあると反射的に中国名と思い込んで、毒づいてしまったのだ。ブログに投稿直後、ある方から指摘され、ブログ記事をすぐに削除した。お酒も入り、眠くて、意識レベルがかなり下がっていたので、本来はお詫びと訂正を明記すべきだったが、頭が働かず、とにかく削除することにした。昨日はいろいろと時間を取られ、このブログを書く時間的な余裕がなかった。こんな早とちりに不安があるので、ツイッターはしないことにしているのだが、思わずやってしまった。記事を書かれた記者の方、時事通信社、1時間弱公開していた間に記事を読まれた方、申し訳ありませんでした。

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時事通信のニュースで「沖縄県石垣市の尖閣諸島沖で15日、中国海警局の「海警」3隻が日本の領海に侵入した。(中略)午前10時15~25分ごろ、魚釣島北北西の領海に侵入した」とあった。

「魚釣島北北西の領海に侵入」??????

いつから、日本で「魚釣島」と呼ぶようになったのだ。

いったい、どこの国の人間だ!

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言い訳にしかならないが、「魚釣島」(日本名)と「釣魚島」(中国名)とは、複雑だ。しかし、私が馬鹿だった。「尖閣列島」=中国での呼び名「釣魚島」としか頭になかった。自分の知識が欠けていたと反省だ。日中関係が少し雪解けかと思っていたら、中国の潜水艦が接続水域に侵入したとあったので、過敏に反応してしまった。

それにしても、日中・日韓の関係はあまりにも脆く、危険な状態になっている。中国はこんな国だと思って納得するしかないが、日本国内で湧き上がる嫌韓感情は如何ともしがたいものがある。そして、悲しくもある。朝日新聞が慰安婦に関わる記事の捏造を認めてから、「慰安婦」問題には、うんざりであるとの気持ちが強くなってきているように思う。私のように高齢者と分類されるようになった世代でも直接関与しているわけでもなく、今の30歳くらいから下の世代にとっては、祖父・曽祖父の時代の出来事だ。特に若い世代にとっては、2-3世代前のことに対する繰り返しの謝罪請求には、反感が多くても当然だと思う。私は、この問題が蒸し返される度に、「慰安婦」という環境に置かれた女性たちに申し訳けない気持ちから、日本は謝罪と補償をすべきであると考えていた。そして、「最終的かつ不可逆的に解決した」と聞いたときには安堵したものだ。

しかし、今回の韓国政権の立場は、こんな私でも限界を超えるものがある。日本人の大半が戦争を知らない世代となった今、今回の蒸し返しには、さすがに「もう、いいや」という雰囲気が漂って当然だ。読売新聞の世論調査では、83%の人が、「韓国政府からの追加要求には応じないとする日本政府の方針を支持する」と答えたそうだ。さもありなんだ。韓ブームで両国間の関係が良くなったにもかかわらず、このようになってしまったのは残念だ。

私の周辺の韓国人の人たちは、礼儀正しく、勤勉で、誠実な人たちばかりで、日本大好きであるので、どうしてこのような状況になるのか不思議でならない。もう一度韓ブームのような日韓関係に戻る日を願って、彼らとの接点を広げていくしかない。これからも、韓国の人たちや韓国の企業と一緒に、がん患者さんのために共同研究・共同事業をやっていきたい。地道にお互いを理解していくしか、道は開けない。

そして、遺伝学的には日韓は非常に近いのだ。

がん予防は可能か?ガラパゴス的「日本の禁煙・ワクチン」施策

「CA Cancer Journal for Clinicians」誌のオンライン版で「Proportion and Number of Cancer Cases and Deaths Attributable to Potentially Modifiable Risk Factors in the United States」というタイトルの論文が公表された。日本語で意訳すると「人為的に減らす可能性がある危険因子が関与する、がんの発症数や死亡数とその割合(米国)」といったところか?生活要因やウイルス感染症などが、がんリスクに関わることはよく知られているが、この論文は、それぞれの要因のがん死亡への寄与度を数字で示したものだ。

 

改善することのできるがん関連リスク因子(米国、30歳以上のケースで推測)

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とあった。

 

米国のがんによる死亡数は約60万人であり、禁煙対策や肥満対策で多くのがん死を減らすことができる可能性がある。正確な表現ではないが、この表からは、喫煙をなくすと、がんの死亡数を25%、肥満予防で6.5%減らすことができる可能性があるということだ。今でも、喫煙の影響を否定する人たちがいるが、科学の世界では絶対に受け入れられない話だ。「喫煙や飲酒は欠かせない、野菜は大嫌いだ、運動したくない」は、もちろんそれぞれの自由だが、喫煙や過度の飲酒ががんリスクを高めている科学的事実は否定できない。利権が科学的事実を歪めることがあってはならない。

 

そして、日本として大きな問題は、パピローマウイルス(HPV)感染予防だ。HPV感染症は、子宮頸がんだけでなく、頭頚部がんにも関連している。この観点から、女性だけでなく、男性にもワクチン接種を勧める動きがある。先進国では例外的に日本だけが、子宮頸がんワクチン接種が足踏み状態にある。原因は明白で、科学的な根拠ではなく、情緒的煽動で、必要な施策が捻じ曲げられているからだ。いつもエビデンスが重要だと言っている国立がん研究センターは、この問題には頰被りのようだ。10-20年後、日本だけが子宮頸がんによる死亡数が高止まりした場合、誰が責任を取るのか?科学的素養に欠けるメディアか、役所か、それとも、国立がんセンターか?

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エイズに罹るサル・罹らないサル;どこが違うのか?

今朝は気温が久々にマイナス一桁台となり、歩いて通勤した。先週は完全防備していても2-3分歩くだけで体の芯まで冷え込む気候だったが、10度上昇すると体感的には全く違う世界だ。日中も、零度を超えて4度まで上昇した。この気温で暖かく感ずるのだから、人間というのは不思議な動物だ。木曜日には14度まで上昇し、過去最高気温記録(11度)を更新する予報がでている。体にも優しい気温となる。

1月4日号のNature誌に「Sooty mangabey genome sequence provides insight into AIDS resistance in a natural SIV host」(自然界に存在するサル免疫不全症ウイルス抵抗性を尾長ザル(?)のゲノム解析から考察する)というタイトルの論文が掲載されていた。「Sooty mangabey」をどのように訳せばいいのかよくわからないが、どうも尾長ザルの一種のようだ。SIVSimian immunodeficiency virusの略で、サルにエイズを引き起こすウイルスだ(人でエイズを起こすウイルスはHIV)。しかし、この尾長ザルでは、ウイルス感染症は起こすのだが、エイズの症状には至らない。

そこで、研究者たちは、エイズを発症するサルと発症しないサルのゲノム配列を比較して、エイズに対する抵抗性に関連する遺伝子を見つけようとしたのである。そして、免疫に関与する分子のうち、細胞接着に関連するICAM2と自然免疫に関連するTLR4という二つの分子が、エイズを発症する人やサルと、エイズを発症しない尾長ザルで異なっていることを見いだした。ICAM2は細胞の表面出でていてリンパ球が動き回ったり、どこかに入り込んでいくことに重要な役割をしているようだが、調べられた尾長ザルでは重要な部分が違っているために細胞の表面に出て行けないようだ。それが、どのようにエイズの発症にかかわっているのか不明だが、これらの差が発症に重要な鍵となっているなら、それを手懸りに新薬の開発につなげることができるだろう。

人ではすでに、CCR5という遺伝子が作るタンパク質が、HIVが細胞の中に入り込むために重要であることが証明されている。HIV感染リスクが高いにも関わらず、感染症を起こさなかった人に共通する遺伝子多型を調べた結果、CCR5遺伝子多型が発見され、これを手懸りに新しいHIV薬剤が開発されたのである。HIVに限らず、ウイルスはウイルスの持っている遺伝子(ゲノム)が作り出すタンパク質だけでは増殖できない。したがって、ウイルスが増えていくためには、細胞内に入り込むことが不可欠である。HIVCCR5タンパクにくっつくことによって細胞内に入り込むのであるが、このCCR5遺伝子多型によって作られたCCR5タンパク質はHIVと結合する性質をなくしているため、HIVウイルスが細胞内に入り込めないのだ。

そして、ウイルスは、単に細胞内に存在している道具や材料を、ひっそりと無断借用して自らを増やしていくだけでなく、ウイルスが細胞内に入ることによって、ウイルスの増殖に必要な道具を感染した細胞内で作らせるための刺激を起こすようだ。その道具の一つとしてMELKという分子が重要であるらしいことが、「Molecular Cellular Proteomics」誌の4月号(2017年)の「Kinome Profiling Identifies Druggable Targets for Novel Human Cytomegalovirus (HCMV)」と言う論文に公表されていた。私はこの論文には全く気づかず、昨年末に、共同研究者から教えられ、初めて知った。MELKはがん幹細胞に重要だと考えて十年以上前から研究に取り組み、オンコセラピー・サイエンス社が低分子阻害剤を開発、そして現在、白血病や乳がんを対象に治験を行っている。論文には、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus)感染後24時間で、細胞内のMELKの発現は非常に大きく上がっているようだ。しかも、このMELK阻害剤によって、ウイルスの増殖は劇的に抑えられている。

 

妊娠初期にサイトメガロウイルス感染症が起こると、胎児にいろいろな生育障害が生じるし、骨髄移植後の強力な免疫抑制下でのサイトメガロウイルス感染症は時として致死的となる。後者に対しては新薬の開発が進んでいるが、われわれの阻害剤も、役に立つかもしれない。

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米国の行き過ぎた分業化による個人の無責任さ:私の2時間を返せ!

今日はコメディータッチで。

1年間の体の疲れをとり、気持ちをリフレッシュするために、12月25日から30日までマイアミビーチに行っていた。予約をした際には想像もできなかった厳寒のシカゴを少しでも回避できたのは幸いであった。最高気温27-28度で、真夏のミシガン湖より水温は高く、海で泳ぐことができた。おそらく、もう、2度と来る機会もないので、フロリダ半島の先端に続く島々の最先端にあるKey Westまで行くつもりで、レンタカーを予約しておいた。最先端まで約250キロであり、ハイウエイとそれに続く一本道(島々が橋でつながっている)を行けば3-4時間弱で先端までいけるはずだ(った)

しかし、しかしだ。午前9時20分に予約したレンタカー事務所に行ったが(予約時間は9時30分)、駐車場に全く車はなく、約10組くらいが待っており、事務所には険悪な雰囲気が漂っていた。しばらくして、オーバーブッキングで予約した車が手配できていないことがわかった。早い人は午前8時の予約だが、9時半でも車が手配できていないようだ。受付嬢が「少し待てば来る」と言ったが、待てど暮らせど車は来ない。まさに、蕎麦屋の出前だ。途中で怒って「もう要らない」と帰って行った人もいた。日本では考えられない、信じ難い光景である。ロシア人らしい女性は、受付嬢の言い訳を聞くたびに「ジーザス!」と声をあげていたが、ないものはない。神も仏もなく、あるのは分業化に伴う、カスタマーに対する無責任さだけだ。日本なら「申し訳ありません」の一言でもあるところだが、分業体制が極端に進んだこの国では、自分に関係ないことは知らんぷりだ。車が無いのは、彼女たちの責任ではないと割り切っている。そういえば、レストランでも、自分で皿をひっくり返したにも関わらず、「アクシデントが起こった」と他人事のように言い訳していた婦人がいた。そうしなければ、この国では生きていけないのだろうか?

話を戻すと、昔の私なら30分で怒りをぶちまけて「もういい!!」と帰ったところだが、歳を取ることは怒る気力をなくさせるものだ。米国の「Wait a minute」が「あと数時間まで含んでいる」ことを学んだこともある。激しい文句でも言おうものなら、某航空会社のように、ガードマンに力づくで事務所から追い出されるかもしれない。そして、「もう少し」を20回くらい聞いた午前11時になって、ピックアップトラックならすぐ手配できると言われた。もうヤケクソで「何でもいいから」と言ったところ、11時15分になってようやく車に乗ることができた。しかし、あまりの大きさに仰天だ!フォードF350というピックアップトラックだった。運転席に座った途端、後悔の念が湧き上がってきた。予約していた車とは、軽自動車とミニバン、駆逐艦と空母くらいの差だ。でも、ここでこの車は嫌だと言えば、あと何時間待たされるかわからない。予約など無効に等しいこの国のあり方は絶対におかしい。レストランを予約していても30分くらい待たされたことがある。飛行機など、オーバーブッキングで「300ドルで」「500ドルで」次の便はどうかとアナウンスしている場面は日常の光景なのだから。

気を取り直して、手足に力を入れて、ナビを見ながら目的地に向かったが、隣の車と接触しそうで恐る恐るの運転だ。市内を抜け、Key Westにつながる州道1号線に入ったが、渋滞につぐ渋滞で、目的地の半分まで行ったところですでに3時間以上かかって、目的地まで行くことは断念。しかも、ガソリンメーターは恐ろしい速さで「E」に向かって減っていく。しかし、島と島をつなぐ端から見る景色は美しかった。シカゴにはない、南国の雰囲気を十二分に楽しんだ、と言いたいところだが、運転に気を取られて、それどころではなかったのが本心だ。翌日は前腕部の筋肉が痛がったが、よほど力が入っていたのだろう。

レンタカーを午後5時過ぎに返しに行ったところ、受付嬢が「無事でよかった!」と一言。心の中で「それはどういう意味や。こんな大きな車しかないと言って押し付けておいて、何がよかったんや!」と心で叫ぶが、そこは大人だから声には出さない。そして、受付嬢が唐突に「あなたにこの会社のことを満足して欲しいので30ドル引きでどうだ」と申し出た。あまりに急なことなので返答を躊躇していたところ、「では、90ドルを40ドル引きで、50ドルでどうか」と言ったので、反射的にOKと返事してしまった。2時間も待たされたので、私のイライラの時給は20ドルの計算だ???「この会社を次に使う時は、米国内のどこでも20%引きにする」と微笑みながら付け加えたが、「アホか!二度とこんな会社使うかい!」と心の中で毒づいた!もちろん、私もニコッとしながら、「Thank you !」と返事した。

まあ、これが米国だと思っていたが、おまけがあった。クレジットの明細を見てびっくり。まったくディスカウントなく、90ドルが請求されていた。このレンタカー会社の名前は「En・・・・・・」。皆さん、メモしておいて下さい。それにしても、年末の休暇は鬼門だ。

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リアルタイム遺伝子解析時代はすぐそこまで!

IBMのワトソン(人工知能)のコマーシャルで、開業医が遺伝子解析結果を扱っている場面が紹介されている。人工知能は、専門的な知識を持たなくても、最先端の結果をユーザーが利用することを可能にする。日々更新されていく新しい技術や情報を入手する事は、最先端研究の場にいるわれわれでさえ厳しい状況なので、臨床現場で忙しくしている医師や看護師・薬剤師がそれを行うことは不可能と言っていい。しかし、最先端技術や治療法は、続々と医療現場に応用されるようになってきており、これに対応した医療システムの構築が待ったなしの状況である。

人工知能は、非常に難解な生データを解析し、ユーザーの理解が簡単な解釈をつけて提示できるので、専門家と一般ユーザー(すべての医師・医療従事者や患者)の知識ギャップを埋める架け橋として機能する。個別医療の推進には不可欠な道具である。人工知能が広く利用されるようになれば、最先端研究者・医療従事者が特権的に利用している診断法や治療薬選択法が、すぐに、いつでも、どの医師(医療従事者)でも簡単に利用することが可能となると考えられる。副作用情報も、一般の医師や患者が簡単にアクセルすることが可能となるだろう。

現状の遺伝子診断には、複雑な解析操作や情報解析、そして大型の解析機器が必要であるので、リアルタイムで人の遺伝子診断ができるようになるまでは、多くの課題を解決しなければならない。しかし、感染症の病因遺伝子解析をリアルタイムで実施する日は、それほど遠くないかもしれない。これまでの遺伝子解析は、遺伝子(DNA)を研究室内で処理し、アイソトープ(放射線)や色素で可視化することによって行われてきた。現在、汎用されている遺伝子解析装置は色素(異なる色)を利用して4種類の遺伝暗号を判別している。

その煩雑なプロセスを一変させるような技術が広がりつつある。それはナノレベル(ナノメートルは10のマイナス9乗メートル)の小さな穴をDNAが潜り抜ける際に発生する電気の流れを検出することによって遺伝暗号を読み取っていく技術である。まだ、精度は高くないが、同じ部分を複数回読み取ることができれば正確さは高められる。また、現在汎用されている遺伝子解析装置は、解析することのできるDNA断片が数百塩基と短いが、このナノ装置は数十万から百万単位の長さを読み取ることができるようである。そして、解析装置が手のひらに乗るくらい小さいことが最大の利点である。現時点では人のゲノムを解析するのは難しいが、細菌やウイルスであれば十分に解析可能だ。

さらなる利点は、RNAでも直接読み取ることができる点だ。一部のウイルスのゲノムはDNAでなく、RNAで構成されている(インフルエンザ、風疹=おたふくかぜ、麻疹=はしか、C型肝炎ウイルス、エボラ出血熱、エイズなど)。もし、新規感染症などが発生した場合でも、血液などを輸送せずに現地で解析し、パソコンレベルで遺伝子を照合させることも可能(僻地でも、衛星を利用した通信での情報処理も可能)となる。家畜類の感染原因菌・ウイルスの特定も簡便になり、より早期に対策を打ち出すことができ、感染症拡大の防止にも貢献できるだろう。昨年来話題となっている獣医学部でもこのような解析手法に取り組むことが重要となってくる。

技術革新は驚異的なスピードで進んでおり、遺伝子解析やデータ解析のスピード、それにかかる費用も、もう一段進めば、遺伝子診断の汎用化が一気に進むものと考えられる。犯罪容疑者の特定も瞬時にDNA解析を行うことができるようになるだろう。もちろん、かかりつけ医で簡単に遺伝子を調べて、対策を練ることも可能となるだろう。遺伝子解析技術や人工知能の進歩によって、医療現場は激変するものと想定されるが、医療提供体制はそれに全く追いついていない。

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厳寒のシカゴで迎える6度目の元旦

新年まであと2時間と少し。今現在、外気温はマイナス16度、明日の朝はマイナス20度まで下がる極寒の中で、新年を迎えつつある。「寒い」の一言しかない。予報によると、1月5日まで最高気温がマイナス10度を下回る。連日、過去最低気温を更新しそうで、6年間で最も寒い冬だ。瞬間的にこれより低い温度の時はあったが、10日以上に渡ってこのような気温が続いたことはない。身も心も引き締まると言えば格好いいだろうが、身は縮みあがり、心は折れそうになる。外を歩けば、心臓発作に見舞われそうだ。

 

こんな状況でも、前を向いて進まなければ思う精神的な支えになっているのは、私を励ましたり、頼りにしてくれる患者さんや家族の声だ。2週間ほど前、二人の十代のがん患者さんの家族からメールをいただいた。ちょうど日本に滞在していた時だったことと、あまりにも差し迫った様子のお父様のメールに電話を差し上げて話をさせていただいた。今の私の立場で、直接何かができるわけではないが、希望を提供する医師を紹介することはできるし、私はその希望が希望で終わることなく、がんの治療法として科学的に証明され、患者さんに元気を取り戻せることができると信じている。生きる希望があればこそ、明日の自分のために頑張ることができるのだ。私が信じているだけでは、「鰯の頭も信心から」程度だが、2018年には周辺の協力を得て、科学的に攻めていきたい。治験で効果が実証されていない抗がん剤療法を次々と提供するのも「鰯の頭も信心から」に近いと思うのだが。

 

6年前の元旦、私はシカゴに移ることで、「一から出直し」の気持ちだった。4月1日からシカゴ大学で日米の差を自分の目で確かめ、米国からの情報発信によって日本のがん医療を変えたいと願っていた。そして、この6年弱の間、色々な体験をし、がん医療の在り方も大きく変わった。がんの第4の医療としての免疫療法の確立、オバマ前大統領による「プレシジョン医療」「ムーンショット計画」の推進があった。今や、がん医療の現場でのゲノム情報の利用・さまざまな免疫療法の応用は止められない。

 

しかし、日本の現状は危機的だ。ゲノム解析技術の進歩と新たな免疫療法の試みから大きく取り残されている。今頃、遺伝子パネルを利用したゲノム医療が最先端と言っているようでは、米国から周回遅れでは済まされない。すでに、全エキソン解析・全ゲノム解析を視野に入れなくてどうするのか?また、免疫療法を「でたらめな治療法」と断定的に言っているようでは、科学的な素養の欠落をさらけ出しているようなものだ。

 

「標準療法が尽きれば、座して死を待て」で医療と呼べるのか、恥ずかしくないのかと糺したい。ゲノム科学・免疫学などの進歩も理解できず、「治験で証明されたものだけをエビデンス」としか認めないようでは、医療従事者として失格である。と批判しているだけで何もしなければ、私自身が医療従事者として失格となってしまう。20年以上前から提言してきたオーダーメイド医療(プレシジョン医療)が、現実となっているのだ。がん医療の大変革を誰も挑戦しないのであれば、自分でするしかない。行動するしかない。がん患者さんや家族にもっと身近に寄り添って、笑顔を取り戻すために役立ちたい。

 

2018年は第2の人生の旅立ちだ!

 

PS:年末に携帯電話が故障して、電話の連絡先もLINEの登録アドレスもすべて失ってしまった。バックアップを取ろうと思いながらも、先送りにしていたために、お手上げだ。俗世界から離れて過ごすのも一興かなと思いもしたが、やはり不便だ。知人の皆様、申し訳ありませんが、大学宛てのメールで連絡先をお知らせください。

 

20171231日の夕焼け

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T細胞系悪性腫瘍治療に光明?!

今月号のNature Medicine誌に「Targeting the T cell receptor β-chain constant region for immunotherapy of T cell malignancies」というタイトルの論文が掲載されていた。T細胞受容体を標的としたT細胞系の悪性腫瘍に対する新しい可能性を示した論文である。

 

Bリンパ球に特異的な分子を標的とした抗体療法やCAR-T細胞療法は、顕著な効果を示しており、これによってB細胞系の白血病やリンパ腫の治癒率は格段に改善された。しかし、Tリンパ球由来の白血病やリンパ腫は、旧来の抗がん剤治療しか適応できず、治療の選択肢が限られているのが現状で、予後もBリンパ球系腫瘍に比してかなり悪い。そのような中、T細胞においてのみ発現されているT細胞受容体(TCR)を標的としたCAR-T細胞を作って応用しようとしたのが、今回の論文の試みだ。

 

T細胞を完全に叩くと、免疫不全のため、普通の生活環境で生きていくことが困難となる。したがって、実際に患者さんに応用するにはリスクが高いのだが、この論文では、T細胞受容体ベータ鎖のコンスタント領域(C1b)への抗体を利用してCAR-T細胞を作成している点が重要だ。T細胞受容体はアルファ鎖とベータ鎖が組み合わさってできている。図のC領域がコンスタント領域ですべてのT細胞に共通している。ただし、アルファ鎖にはC領域は1種類しかないが、ベータ鎖にはC1bとC2bの二つのコンスタント領域が存在し、それらが細胞ごとに使い分けされている。したがって、アルファ鎖のコンスタント領域を標的とするとT細胞すべてが攻撃されるが、ベータ鎖のT細胞の場合、C1bとC2bが区別できれば、どちらかは傷害を受けないで生き残る。

 

論文では、T細胞受容体C1b領域に対するCAR-T細胞のデータが示されていた。抗体部分はC1b領域(を持つTリンパ球)には結合するが、C2b領域(を持つTリンパ球)には結合しないので、C2b領域を持っているTリンパ球は無傷で残る。したがって、T細部による免疫力は維持されることになり、これが大切だ。ただし、当然ながら、TCRのベータ鎖にC1領域が含まれている腫瘍にしか効果がない。おそらく、Tリンパ細胞系腫瘍細胞がC1領域を含むTCRを持っている患者さんに対する治験はすぐにでも始まるだろう。C2領域だけを認識する抗体が見つかれば、これも時間の問題だ。

 

医学の進歩は「目覚しい」の一言で語れないくらい急速に進歩している。今日は希望がなくとも、明日になれば希望が見つかるかもしれない。そんな時代に生きているにも関わらず、標準療法が終われば、緩和ケアで死を待てというのが、真っ当な医療なのか?「抗がん剤を受けたくない」と言うと、患者さんを簡単に突き放すのが近代的な標準医療なのか?医療に携わる人間に求められる、他者への愛・敬意が欠けているのではないのか?目の前の患者さんよりも、役所に目を向けすぎていないか?限られた命であると宣告された患者さんに対しても、リスクを誇大に強調しすぎて、患者さんの生きる権利・チャンスを奪っているのではないのか?

 

これらは、私の独りよがりの空しい叫びかと思っていたが、前回の日本訪問時には、同じ想いを持っている複数の方との出会いがあった。仲間はいるのだと勇気付けられた。そして、その期間中、普段よりも多く、患者さんからの問い合わせもあった。「助けてください」という文字を目にして、胸が締め付けられる思いがした。論文を一つ書くよりも、このような患者さんたちの支えになることの方が貴重なような気がしている。ドクターXが「一人でも多くの人の手術をして、一人でも多く治したい」と言っていたが、私も「どんな形であれ、一人でも多くの患者さんに役に立つ方法をいつも模索している」。

 

来年に向け、私の腹は固まったが、私の思いを体現化するだけの人材が集められるのか、大石内蔵助のように人徳のない私には自信がない。でも、やるしかない。天皇陛下は84歳になられたが、病気と闘いながらも、陛下や皇后が東北の方達を励まし続けてこられた姿を目にして、私も日本人としてできることをしなければ、申し訳ないと思う。

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