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がんの延命から治癒へ;プレシジョン医療―(4)

シカゴに戻っての1週間、体が鉛のように重かった。日本滞在中はかなり無理した自覚はあったが、歳には勝てない。そのためか、昨夜は12時間近く寝てしまった。こんなに長く寝た記憶はない。しかし、おかげで、霞がかかっていたような頭がスッキリとした。

 

今日は、日本滞在時に感じた、免疫療法に対する違和感について話をしたい。ちなみに今日から始まっている米国癌学会で、免疫療法とリキッドバイオプシーは中心的話題だ。色々な人と日本に次期がん対策に関する話を聞いたが、残念ながら、リキッドバイオプシーに対する反応は低かったし、「免疫療法」に対して批判的な声が消えないようだ。

 

科学として免疫療法は確固たる位置を築いたことは明白だ。日本では、いい加減な免疫療法が広がることを問題視し、憂慮している人が少なくないようだが、欧米ではいろいろな免疫チェックポイントを対象とする治療薬や多種類の免疫療法の検証が進んでいる。「怪しい免疫療法が広がることを懸念して、まともな免疫療法を抑え込む」ことは非科学的だ。国際的な環境は、「何かが起こる危険があるから、何もしない」といっているような悠長な状況ではない。「真っ当な免疫療法の科学的な妥当性を評価しつつ、怪しげな免疫療法を抑え込む」ことが、国・学会・医学研究者・医師を含む医療従事者の使命のはずだ。

 

このブログでも何度も紹介したが、現在、保険適用となっている免疫チェックポイント抗体は、分子標的治療薬に比べて効果は長期間継続するものの、効果を発揮するまでに少し時間がかかる場合が多い。しかし、有効率は20-30%と限られている。薬価が高いことが問題になっているが、分子標的治療薬と比べて桁外れに高額であるわけでもない。効果がない患者さんに対する無駄な投与や自費診療で治療を受けている患者さんや家族への経済的負担が課題なのだ。

 

米国では、図に示すような、分子標的治療薬と免疫療法の長所を生かして(短所を補うために?)、二つの治療法を併用する臨床試験が多数実施されている。分子標的治療薬で早くがん細胞を叩き、その間に免疫を活性化させて、長期生存する患者さんの割合(治癒率?)を高めようとしているのである。このまま、日本で何もしないでいれば、高額の医療費負担となって跳ね返ってくるのは必至の状況だ。

 

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免疫チェックポイント抗体が効きやすい人、効きにくい人の、がん組織を取り巻く環境は、単純化すると下記の図のようになっている。がん組織のPD-L1が高い症例が効きやすいとされているが、そのような症例では、CD8リンパ球(細胞傷害性を持つリンパ球)が増えていることが多い。すなわち、がん組織内にあらかじめがんを攻撃するリンパ球予備群の存在が重要だ。がんを守る免疫力を抑え込んでも、がんに対する攻撃力が備わっていなければ、当然ながら、効果がないのだ。

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では、さらに免疫療法の効果を高めるにはどうすればいいのか。いろいろと手段はあるが、素直に考えれば、がんを攻撃するリンパ球を増やす方法が頭に浮かぶ。しかし、それが高額であっては、患者さんに負担となって跳ね返ってくる。この観点では、ペプチドワクチン療法(オンコアンチゲンや、最近注目のネオアンチゲン)、あるいは、これらで樹状細胞を刺激した治療法が考えられる。これがもっともっと検証され、有効性が科学的に実証されれば、日本には大きな強みとなる。私が信じていることだけでは、屁のツッパリにもならないだろうが、とにかく私は信じているし、それを実証していきたい。

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嫌なもの、ゲテモノという視点で、目を逸らしていても、似非免疫療法クリニックはなくならないし、患者さんや家族を不幸にするだけだ。科学的な目を向ければ、国として取り組み、評価していくことは当然の流れだと思う。「可能性があるなら、それを科学的に評価していく」、これができないから、日本はこのようになったのだ。政治も、行政も、研究者も、現実に目を向けて、患者さんたちを救う手立てを考えて欲しいと願っている。

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世界大学ランキング2017

タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(Times Higher Education)が世界大学ランキングを公表した。日本では意図的かどうかわからないが、THE世界大学ランキング日本版がメディアで取り上げられているようだ。目を背けたくなる気持ちもわからないわけではないが、日本の大学の世界ランキングは目を覆いたくなるような状況となっている。

 

1.オックスフォード大学 (イギリス)

2.カリフォルニア工科大学 (アメリカ)

3.スタンフォード大学 (アメリカ)

4.ケンブリッジ大学 (イギリス)

5.マサチューセッツ工科大学 (アメリカ)

6.ハーバード大学 (アメリカ)

7.プリンストン大学 (アメリカ)

8.インペリアルカレッジロンドン(イギリス)

9.スイス工科大学―チューリッヒ(スイス)

10.カリフォルニア大学バークレー校 (アメリカ)

10.シカゴ大学 (アメリカ)

と多少の上下はあっても、お馴染みの顔ぶれだ。

 

10位より下のアジアの大学をリストアップと、

24.国立シンガポール大学(シンガポール)

29.北京大学 (中国)

35.清華大学 (中国)

39.東京大学 (日本)

43.香港大学 (香港)

49.香港科技大学 (香港)

54.新加坡南洋理工大学 (シンガポール)

72.ソウル国立大学 (韓国)

76.香港中文大学 (香港)

89.KAIST (韓国)

91.京都大学 (日本)

となる。

 

東京大学はアジアのトップに返り咲くことなく、4位と沈んだままだ。100位以内には、中国+香港5大学、シンガポール2大学、韓国2大学、日本2大学であり、大学教育で見る限り、日本はアジアの盟主とは言いがたい。香港やシンガポールは英語圏であるので有利だとしても、東京大学が中国北京にある2大学の後塵を拝している事実はしっかりと受け止めなければならない。メディアまでもが、世界ランキングから目をそらし、THE世界大学ランキング「日本版」を主に報道しているのは理解しがたい。コップの中の競争ではなく、国際的な視点が必要なはずだが、どうしたことか?日本で3番目でも、世界では200位以内にも入っていないのだ。日本の国際的な地位の低下は否定できない事実であり、大学のランキングの低下は、将来の日本の国際競争力低下につながるはずだが、あまりにも疎いのではないのか?

 

これでは、アジアの若者にとって日本の大学に留学することが魅力的でなくなる。このまま低下が続くと、長期的に見れば日本にとって大きなマイナスであると判断し、それに対応することが必要だ。優秀なアジアの若者が集まり、その人たちと人間的なつながりを持つ事は、必ず、国の将来の発展に寄与するはずだ。東京大学在籍時に受け入れた国費留学生(日本の支援で留学してくる学生)は非常に優秀であった。彼ら・彼女らは母国に帰っても、日本に残っても、その国の人たちとのパイプをつなぐ上で重要だ。信頼関係のある人間関係なくして、国と国の友好関係を築き上げるのは困難だ。もっと国際的にも魅力のある大学にすることが急務だと思う。

 

日本の大学の世界ランキングが低下していることは、国レベルで対策を練るべき大きな課題であるはずだが、目に見える対策が練られているようには見えない。森友学園に膨大な時間を費やしている日本だが、あまりにも非生産的な気がする。朝鮮半島では、南も北も不安定な状況で、次の核実験も近いかもしれない。戦争の悪夢の可能性もゼロではない。日本の米軍基地にミサイルが飛んでくればどうするのか?それに核爆弾がついていたらどうするのか?まったく危機管理ができていない。アメリカの政治もおかしいが、日本のそれは喜劇的な要素がてんこ盛りである。本当にこれで大丈夫か、日本の将来は

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がんプレシジョン医療;がんの治癒を目指して(3)+シカゴ5周年

今日はシカゴに来て5年目の記念日だ。いろいろな想いがあって日本を飛び出し、矢のように時間が流れた。日本にそのままいれば、定年後の生活を考え始めていたのだろうが、米国の実情を知り、日本を遠くから眺め、日本のがん医療の将来に対する不安がますます募ってきた。しかし、正直なところ、心の中には、「人の何倍も働き続けてきたのだから、もう、若い世代に任せて静かに過ごしたら」という私と「日本の患者さんのために、倒れるまで、なすべきことをすべきだ」という私が混在している。歳を取ったためか、体調のいい日は頑張ろうと思うのだが、体調の悪い日は弱気になる。そんな時には、患者さんから頂いたメールや手紙を読み返しては自分を鼓舞している。3月18日の大阪での講演会の際に10代のがん患者さんのお父様から、患者さんの手書きの手紙を頂いた。読み進めるうちに目が潤んできた。私の研究成果を待ち望んでいる人のために、重い荷を背負って歩き続ける責任があると改めて感じた。たとえ、それが一人であっても。

話をプレシジョン医療に移す。がん医療の質の更なる向上のためにも、医療費増加抑制のためにも、がんのプレシジョン医療体制の確立が不可欠だが、全体像を俯瞰的に考えることのできる人材が日本には少ない。先週の日本滞在中に、中国のiCarbonX・韓国のTheragen・米国のThermo Fisherの幹部たちと会合を持ったが、ヘルスケアからメディカルケア、そして生命保険・医療保険まで含めて幅広い議論ができた。しかし、日本人の研究者とは話がなかなかかみ合わない。自分の研究の延長戦上の議論しかできないように思えてならない。

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(メディファックス ウェブ;医療の「希望」を信じてー米国からの便り(6)より)

 

医療費の増加が必然の高齢化社会を乗り切るためには、ゲノム情報などを利用したプレシジョン医療が絶対的に必要だ。がんに限らず、病気の予防(ヘルスケア)、早期発見・早期治療は医療費の削減につながるはずだ。そして、塩崎大臣が力を入れている、厚生労働省のゲノム医療会議の資料を期待を持って読んだが、あまりにも視野狭窄で愕然とするしかなかった。これでは3周くらい遅れているトラック競技で、必死で追いすがっているレベルだ。もっと世界に目を向けて、将来起こりうることを想定しないと、世界をリードすることなど夢物語だ。

特に、私はリキッドバイプシーはがんの医療体系を変えると思っているが、日本ではそうでもないらしい。リキッドバイオプシーは

(1)がんのスクリーニング

(2)がんの再発モニタリング

(3)がんの治療効果(薬物療法・免疫療法)の判定

(4)治療薬耐性の判定

などの低侵襲の診断法としてかなり威力を発揮すると考えている。もちろん、完璧ではないが、合併症リスクの低くない内臓のバイオプシーなどに比べれば、かかりつけの医療機関で簡便に採取できるという利点を持っている。日本には、海外に比してCTやMRIなどの診断機器が溢れているので、これらの検査を比較的簡単に受けることができるが、これらの検査の手間を考えれば、血液である程度診断できれば、専門医療機関へのアクセスが悪い患者さんにとってもメリットが大きいはずだ。

ゲノム医療が医療の現場で活用されるようになってきたのは、次世代シークエンサー(NGS=Next Generation Sequencer)の開発によるところが大きい。1990年に始まったヒトゲノム計画では、一人のゲノムを解読するのに、10年以上の歳月と1000億円の経費を要した。それが、今や、全エキソン解析は2週間と5万円で可能だ。1台の機器で一度に大量のサンプルの解析が可能なので、最新機器では解析に必要な時間を人数で割ると、15分間で一人のエキソン解析が可能だ。解析費用も効率的に運用すると3万円程度まで下げられると思う。正常組織とがん組織のDNA解析、がん組織での遺伝子発現解析、そしてその後の情報解析を含めても、一人20万円もあればできると推測される。1万症例の解析をしても20億円でできる計画だ。

これができれば、膨大な量の医学的に重要な情報が蓄積される。これによる無駄な医療費削減を考えると損はしないと思うのだが、悲しいことに、こんな議論が全くできなかった。しかし、自分の信じることを前に進めるしかない。稀少がんも、小児がんも、治りにくいがんも、まず、敵を徹底的に知ることから始めれば道が開けるはずなのだが?

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がんプレシジョン医療;がんの治癒を目指して―(2)

プレシジョン医療には、当然ながら予防や早期発見も含まれる。肝炎ワクチンやパピローマワクチン(現在では、子宮頚がんだけでなく、頭頸部癌の予防につながると考えられている)など有効な手段だ。そして、個人ごとの遺伝的リスクに応じた、がん予防プログラムや検診プログラムの導入が必要だと思う。中韓では、すでに生命保険・医療保険企業と連携する形で、トータルヘルスケアシステムが開始されている。糖尿病など薬物治療ではなく、運動療法のアドバイスまで含めたサービスが提供されている。

 

日本では、肺がん検診、胃がん検診、乳がん検診、子宮がん検診などが実施されているが、検診率は、まだまだ、満足の行くレベルではない。大腸がんなどを本格的にスクリーニングするには、X線検査や内視鏡が必要だが、大腸を空っぽにする前処置が結構大変だ。私も何度か経験があるが、何度もトイレに駆け込むのは大変だし、油断するとお漏らししてしまいそうだ。

 

そこで可能性があるのがリキッドバイオプシーだ。リキッドバイプシーの利用目的の一つは、がんの早期発見だ。検査において重要な項目は、検査の侵襲性・感度・精度だが、リキッドバイオプシーは間違いなく、侵襲の程度は低い。しかし、理論的には、ステージ1・2のがんをすべて見つけることは難しい。大腸がんの場合、ステージ1・2で何らかの異常が見つかるのは50-60%程度だ。しかし、異常が見つかれば、何らかの病変の存在する確率は高い。

 

技術的かつ論理的な限界は、血液(血漿)中に含まれるDNAの量だ。一般的な検査としては、血液7-10ccで答えが出ないといけない。血漿から数十ng(ng(ナノグラム)は1グラムの10億分の1)が回収でき、そのうち5-10ngDNAが利用されることが多いように思うが、この量は結構厳しい。1個の細胞に含まれるDNAは約6.6pgpgピコグラムは1グラムの1兆分の1;ピコ太郎とは何の関係もないと思う)であるので、6.6ng1000細胞相当だ。一つの細胞には2ゲノムあるので、5-10ngだと2000ゲノム程度しかない。しかも、DNAの長さが短いので、遺伝子を増やす操作(増幅)する際にも効率が悪くなり、実際には1000分子相当分しか増幅できないことになる。検出率を上げようとすると、当然ながら量を多くした方が良いが、それに応じて、手間もかかり、検査料金も高くなる。新しい技術の限界を知った上で技術を利用すればいいのだが、それができないのが問題だ。

 

また、血液を採取してからDNAを回収するまでの時間が、どの程度解析結果に影響するのかも検討しなければならない。質の悪い研究者が、無茶苦茶な実験条件でごみの山を築き上げて、解析結果の解釈に混乱を引き起こす前に、技術の標準化が不可欠だ。米国のNIHには技術の標準化を専門にする研究機関があるが、日本にはない。また、「できるかどうかわからない場合に、何もしない」ことを選択する文化を捨て、「できるかどうかわからないなら、挑戦してみる」ことが必要だ。これができなければ、永遠にイノベーションなど生まれない。

 

私は、発見しにくいがんである、卵巣がん、膵がん、胆管がんなどでも大腸がんと同じレベルで検出可能なら、その臨床的意義は高いと考える。とにかく、有用性を急いで評価する方向で研究を進めたい。P53遺伝子の異常が検出されても、どこにがんがあるのかわからないの意味がないと、したり顔で偉そうにしている研究者がいるが、こんな人たちが日本の研究の足を引っ張っている。今日できないことが明日突然できるようになるのではない。地道な努力を続けることによって、日々、技術は改善され、実用化にたどり着くのだ。

 

卵巣がん・膵がん・胆管がん患者団体の方々、是非一緒にやりましょう。それ以外の患者団体の方々も、是非、できることがあれば一緒に行動を起こしましょう。

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リレ―フォーライフ@東京医科歯科大学

今、羽田空港にいる。昨日は久々にリレーフォーライフに参加していただいた。患者さんや家族の方と触れ合うと刺激になる。米国のように、患者さんたちと医師・研究者が一体となった行動を起こすことが必要だと思う。滞在中、プレシジョン医療という言葉も広く使われるようになったものだと感じたが、基本的なコンセプトをわかっている人が少ないため、内容が非常に矮小化されているようだ。

 

欧米崇拝のNHKスペシャルは、多くの患者さんに幻想を引き起こしたためか、、患者さんたちにはあまり評判が良くなかったようだ。あまりにも日本の現状認識に欠けていたと思う。しかし、少なくとも何かが起こりつつあるという問題提起にはなったのではないか?また、正しい知識をどのように共有していくのかという課題を明らかにした。しかし、この問題の解決は非常に難しい。医療関係者と一般の方の知識ギャップだけでなく、医療関係者間の知識ギャップも大きい。教育の問題、メディアの不見識、隙あらばと狙っている詐欺師たち、このような課題を個別に解決するのではなく、抜本的な対策が必要だ。

 

今回の8日間の日本滞在中に、日米韓中の4つの企業と会合を持った。ゲノム医療を実地医療として広く利用できる方策を検討するためだ。特に、中国・韓国の企業は、メディカルケアとしてのゲノム医療ではなく、ヘルスケア(病気のリスク判定やスクリーニング)まで視野を広げて、個人個人の健康管理を提供する企業としての発展を目指している。ある企業は、国外も含め、患者さんに最適の医療機関を紹介することも含めたビジネスを考えている。

 

がんプレシジョン医療は、薬の効果に関連する遺伝子を調べて患者さんを選別するといった狭い定義のものではない。米国の大統領が、推進すべき国策としてそのような狭義なものを一般教書演説に含めるはずなどないのだ。がんを治癒することを目指した「ムーンショット計画」は、壮大な計画であることは疑いもない。少し頭を働かせれば、遺伝子で薬を選ぶといった単純なものではないことがわかりそうだが、日本のメディアにはそのあたりの相場勘が欠けている。

 

プレシジョン医療計画・ムーンショット計画ともに、医療を一変させることを目指したもので、医療の質を向上させつつ、医療費の増加傾向を抑制する効果があると私は信じている。次回は、再び、プレシジョン医療に関する内容に戻りたい。

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がんプレシジョン医療;かんの治癒を目指して(1)

今、金沢から東京へ向かう新幹線の車中にいる。自宅が羽田空港に近いので、今朝は飛行機で金沢に向かったが、夕方は東京駅近辺で用件があるため、新幹線にした。北陸新幹線に乗るのは初めてだ。この列車は東京まで3時間かかるので、結構体にはきつい。でも、若い時(といっても、もう、半世紀も前の話だが)、大阪から夜行列車を利用し、金沢・富山・糸魚川経由でスキーに行ったことが懐かしい。

 

しかし、今朝は腹立たしいことがあった。離陸前の機内で、若い女性二人の非常識な行動に、思わず、「コラ!」と叫んでしまった。私が座っている前を横切って、左側の通路から右側の通路に移動するのはいいが、まず、最初の女性が私の足の親指を踏んだのだが、謝る素振りもない。二人目は、鞄を私の膝にぶつけていったが、こちらも何の反省もない。そこで思わず、言葉が出たのだ。日本の道徳教育はどうなったのだろうか?

 

話を本題に戻し、表題のプレシジョン医療、がんゲノム医療の講演内容を数回に分けて紹介したい。少し前に紹介したが、がんの治癒には早期発見、早期治療が重要だが、肝臓がんや膵がんのようにステージ1でも10年生存率が30%のがんもある。これらのがんに対しては、もっともっと研究が必要だ。それにしても、レストランでの受動喫煙を減らすことに反対する人たちや子宮頸がんワクチンに反対する人たちなど、日本のがん予防対策はかなり大変だ。がん死亡を減らすには不可欠なのだが、利権や感情論が予防を難しくしている。科学的なリテラシーの不足が、客観的な議論の妨げとなっている。ワクチンの場合、社会全体の利益と個人の不利益の対立構造になっているが、前者の利益が後者に比して歴然と大きい場合、国は全体の利益を優先しつつ、個人の不利益を科学的に最小限にしていく責任があるのだが、こんなまともな議論さえできないのが現状だ。副作用には絶対に何らかの原因があるはずなので、感情論でワクチンそのものを葬るのではなく、原因解明のためにゲノム解析などを進め、被害を最小にする努力が必要だと考えている。少数の人権を無視するのではなく、後に起こる子宮頸がんによる死亡という現実を直視することが重要だと思います。

 

また、がん全体の10年治癒率をあと20%高めるには、これらの予防対策に加え、いくつかの具体的なアクションが必要だと思う。そのアクション項目を下記に列記した。しかし、これらのアクションは、個々の研究者の目標ではなく、国が組織として取り組むべき課題だ。数百万円から数千万円の研究費ではなく、国の仕組みとして確立するために、数百億円―数千億円単位で進めていくべき課題だ。

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がん検診率を向上させることは、早期発見につながる。たとえば、胃がんは検診システムが普及している日本では早期がんの状態で見つかる患者が多い。したがって、中国の胃がんの5年生存率と比較すると、日本のそれは数十%も高くなっている。かといって、大腸がん検診を、レントゲンや内視鏡で実施するとなると、医療現場は対応できないのは明白だ。便に血が混じっているのを調べる潜血検査は、擬陽性率(陽性と診断されたが、検査では腫瘍が見つからなかったケース)が90%を超える。新しいスクリーニング法の確立が急務だ。

 

新しいスクリーニング技術として、いろいろな方法が提案されているが、血液中のマイクロRNAやアミノ酸変化などを調べる方法には、私は極めて懐疑的だ。定量的な方法(ある分子が増えたり、減ったりしているのを調べる方法)は限界がある。正常値に幅があることや数字が連続的であるため、どこかで線を引くと、擬陽性が少なくない。もちろん、偽陰性(がんがあるが、検査では陰性となる)もある。すでにがんがあるか、ないのかわかっている条件で、ある分子の量の多寡で分類すると必ず、ある一定の割合でがんと関連しそうなもの(マーカー候補)が見つかる。

 

統計解析をしてP値が0.05であると意味があると信じて疑わない人が多いが、0.05という数字を反対から見ると、100種類調べると5個くらい関連があると間違って判定される可能性があるということだ。そして、このような可能性のあるマーカーを複数組み合わせると、いかにもがんが確実に診断できそうに見えてくるのである。これをオーバーフィッティング(うまく出来すぎ)と呼ぶ。私も苦い思いをした経験があるので、偉そうには言えないが、15年以上前から問題が指摘されている、このような統計学の罠を学習していない(勉強していない)研究者が、想像以上に多いのだ。

 

この点、定性的な測定法(がん細胞だけにしかない性質=DNA変異)を利用する方が白黒が明白だ。もちろん、偽陰性は起こるが、擬陽性は少ない。そこで、リキッドバイオプシーが重要となってくる。今の技術では正常細胞DNA:がん細胞由来DNA1000:1の割合であればほぼ確実に見つけられるところまできている。人間には60兆個(60㎏)の細胞があるので、1000分の1だとがん細胞が600億個(60g)にまで増えないと見つけられないのかというとそうではない。がん細胞は分裂が速いため、日々死んでいく細胞の数も多いので、これより2桁くらい少ない数でも、血液中に混入するがん由来DNAは検出可能と考えられる。現に、ステージ1の大腸がんでも40%で程度で血漿に存在するDNAを調べると遺伝子異常が検出されている。このリキッドバイオプシーの現状と課題については次回詳しく紹介したい。

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革新的技術と規制+トランプ政権NIH予算カット

昨日は先進医療推進フォーラムに参加した。私を含め、3名ががんに関係する話、1名が心臓の再生医療に関わる話だった。最初の演者が、「がんには3大治療があり、外科、化学療法、放射線療法だ」と発言した時には、愕然と、ずっこけてしまった。私も、私の次の演者の東京大学医科学研究所の小沢敬也先生も免疫療法の話をする予定だったからだ。今の時代に、ここまで大胆に免疫療法を無視できるのは大したものだ。やはり、一度頭に染みついた「免疫療法はまがい物」という固定概念を消し去るのは難しいのかな?

 

最後の演者の澤芳樹大阪大学教授は医療イノベーション推進室にいるときに活動していた仲間だ。彼が嘆いていたが、新しい技術が開発された場合、今までの尺度で評価できないにもかかわらず、それを既存のルールに当てはめようとするから物事が進まなくなる。やけどなどの治療に使われる皮膚の細胞シートは医療機器、心筋の細胞シートは医薬品と分類され困った経験を話されていた。このブログでも何度も触れているが、免疫チェックポイント抗体治療薬を含む免疫療法などは、これまでの抗がん剤の基準で評価することができない。法律などの規則が古く、審査する側が不勉強だと、話がかみ合わず、革新的事案が宙に浮いてしまう。審査する体制の強化、特に、先進的なことを理解できる人材の育成が不可欠だ。

 

その点、米国は国を挙げて革新的な医薬品の開発に取り組んでいると書きかけようとした瞬間、トランプ政権の2018年度予算案が漏れ出してきた。Science誌によると、NIH予算が約20%6兆円減で計画されているという。これが事実なら、前年度までの研究計画の継続で手いっぱいで、新規研究計画が完全にストップするかもしれないくらいの衝撃的な数字だ。

 

ムーンショット関係者からは、トランプ大統領はがん研究などには好意的だと聞いてただけに、この減額の大きさは予想外だった。研究支援体制は、一たび崩壊するとそれを再構築するのは簡単にはいかない。研究にとって最も重要な人材の流出が起こると、人を育成するために何倍もの時間が必要となるからだ。日本のがん研究分野の人材も漸減傾向にある。予算もポジションもなければ、研究者は他の分野に転身していくしか、生き延びる道はない。二人に一人以上ががんに罹る時代、がん研究は日本の浮沈を握る研究分野なので目に見える研究支援策の強化が急務だ。

 

次期がん対策計画では、是非、研究者が本気でがん対策に取り組むことができるような希望あるビジョンを提示して欲しいと願っている。

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